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Highlighting JAPAN

消滅寸前の危機を脱した「奇跡の集落」

2016年の調査によれば、全国の集落のうち、過疎化の進行によって、65歳以上の高齢者が住民の50%以上を超え、将来的に消滅の恐れがある集落が20.6%(約1万5千集落)を占める。その一つ、新潟県十日町市池谷集落は、地震被災を契機に都市部の人々との交流を進め、危機脱出を超える成果を上げている。

東京から新幹線と在来線を乗り継いで約2時間、日本有数の豪雪地帯である新潟県十日町市の池谷集落は、山あいの傾斜地に美しい棚田が広がる土地である。1960年代には約40世帯210人が暮らしていたが、都市圏への人口流出が続く中、2004年の新潟県中越地震で大きな被害を受けると、ついに6世帯13人となった。危機感を募らせた住民たちは、「十日町市地域おこし実行委員会」(現在のNPO法人「地域おこし」)を組織し、震災復興作業と共に雪かきや農作業などの手助けをしてくれるボランティアの受け入れを始めた。現在、「地域おこし」事務局長を務める多田朋孔さんも2009年、東京から復興支援に参加したボランティアの一人であった。

「池谷集落は山奥の過疎集落なので、ここに来る前はなんとなく閉鎖的な印象を持っていたのですが、実際に来てみたら真逆でした。地域の人々が陽気で気さくに話しかけてくれるなど、歓迎してくれる雰囲気に驚きました」

消滅寸前の池谷集落を存続できれば、農業の後継者不足、山林の荒廃といった同じような課題を抱えている日本の農山村全体を元気づけるヒントになるに違いない。そうした地域の人々の大きな展望と前向きな姿勢、熱意に心を動かされた多田さんは、2010年2月、当年度に始まった総務省の「地域おこし協力隊」制度に応募した。これは、自治体が地方生活に関心を持ち、過疎地域に生活拠点を移し、地域おこし、農林水産業、住民の生活支援に取り組む都市住民を募り、1~3年の活動を経て、定住・定着を図る取組である。2018年度は5530人の隊員が活躍している。多田さんもまた当時2歳の長男と妻と共に東京から池谷集落に移住し、3年の任期を終えた後も集落にとどまり、「地域おこし」の一員として活動することにした。

NPO法人「地域おこし」では、湧き水を利用した米の生産と販売を中心事業としているほか、山菜採りのツアーや田植えイベントの開催、集落での暮らしを体験するインターンの受け入れも行っている。2013年からの6年間のうち、10代から60代まで56人をインターン生として受け入れ、そのうちの15組18名が十日町市内に定住した。農作業や行事の手伝いなど多岐にわたる活動によって、地域の人々との良好な関係を築くことで定住につながったと多田さんは考える。現在、池谷集落の住民は9世帯21人となり、そのうち1歳から11歳までの子どもが6人いる。人数は決して多くはないが、消滅の危機を脱しようとしている。

「美しい自然や食など、地方には多くの可能性があります。それらの中でも私が一番大きいと思うのは“ひと”です。行政主体ではなく、地域の人が主体となって土地の宝物に目を向け、積極的に都市部の人とも関わることが地域活性化につながると思います」と多田さんは語る。

 「地域おこし」の目標は、100年続く集落である。将来的に衣食住、そして電気、水道、ガスといったエネルギーを地域でまかなうことが可能になれば、生活の基盤はより強固なものとなる。次世代まで安心して暮らせる集落づくりを目指し、多田さんたちの挑戦はこれからも続く。