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Highlighting JAPAN

南信州の真の魅力を発信する

長野県売木村に暮らすドイツ人の五月女・ニーザー アレクサンダーさんは、地域おこし協力隊員として、日本の伝統の良さを感じ取り、その美しさを海外に発信している。

長野県南部、愛知県に隣接する売木村は、人口550人足らずの小さな山あいの村である。この村で「地域おこし協力隊員」(参照)となった五月女・ニーザー アレクサンダーさん(以下、アレックスさん)は、ベルギー生まれのドイツ人。日本語、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語の5か国語を駆使して、内外に村の魅力を伝えている。

同じ長野県内の有名な観光地、軽井沢町や白馬村に比べれば売木村は知られていないが、山や川に囲まれた美しい自然の魅力にあふれている。

アレックスさんは、その魅力を海外に発信しようと「うるぎ国際センター」という宿泊可能な拠点を整備し、2019年2月にプレオープンしている。

「売木村は四季折々の美しさがあり、何より村民がみな家族のように親切で温かい。ウォーキングやサイクリングのほか、稲作の農業体験など、素晴らしいアクティビティもたくさんあります」とアレックスさんは言う。

彼は、大学時代に留学先のオーストラリアのシドニーで、その後、妻となる日本人留学生と出会う。妻と共に日本の愛知県に移住したアレックスさんは、愛知県で語学教師、その後に自動車業界の特許校正者の職を得ると、休日には、愛知から北海道や九州まで日本中をバイクで旅してまわるようになった。なかでも心を惹かれたのが “南信州” と呼ばれる長野県南部地域だった。そこには、山と川の豊かな自然があり、自分の子供たちをこの環境で育てたいと思うようになった。何度も南信州を訪れるうちに、売木に住む友人は市長にアレックスさんを紹介し、市長は築100年を超え、10年以上住まれていない山間の古民家を見せた。最初は、妻と子供たちの家族4人の住まいとして彼はその家を借りたけた。

しかし自らの住居として使うだけでは惜しいように思われ、アレックスさんは、宿泊施設付きの文化交流センターとして開放するプランを思いつき、「うるぎ国際センター」の企画案を売木村に提出してみた。これが、評価され、役場と連携してインバウンド拠点を整備することとなった。

「もちろんたくさんのインバウンドを誘致したいと思っています。でも、この地域を大規模な観光地にしたいわけではありません。売木村の素晴らしい自然や文化を守っていきたいとも思っています」とアレックスさんは語る。

そのため、「うるぎ国際センター」は、宿泊施設としての改築を最小限に留めている。彼は、建物の元の美しさを取り戻すために、トタンの外壁を土塀に取り替えた。二層屋根のデザインはかつて養蚕が盛んだった山間の養蚕農家によく見られた建築様式である。囲炉裏が切られた1階の天井の板にはすき間を開けて、暖かい空気が上昇するように設計され、寒さに弱い蚕にとっては快適な環境となる。そして囲炉裏から上がる煙は床や柱から屋根全体までをいぶして蚕を病気から守った。

古民家のもともとの持ち主は養蚕をやめた後、ベニヤ板を貼り囲炉裏を隠してしまっていたが、アレックスさんは地元の建築家、大工、若者とともに古い畳の床を、修復した囲炉裏を囲むよう特別に作った畳と、板のフローリングに張替え、人々が集える場所に改修することにした。さらに釘を使わない日本の伝統工法が目に見えるようにし、農家の伝統的な美しさを再現したのである。

そんなアレックスさんは、村の伝統行事にも積極的に参加している。毎冬、村中央にある観音堂に村人たちが集まり、48日間毎日、健康と安全を祈願して経を上げる「念仏講」に参加した。約260年もの間、村人に受け継がれたこの行事に、外国人が参加するのは初めてのことだった。

「ただ旅行で訪れるだけではわからない、その土地の生活や人々の思いがあります。そうしたことを知ることが、本当の国際交流だと考えています」とアレックスさんは言う。

アレックスさんは、「うるぎ国際センター」が、かつて日本のどこにでもあっただろう伝統の良さ、その朴とつとした美しさを伝える国際交流の場になることを願っている。