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Highlighting JAPAN

絵葉書のような景色の中へ

神奈川県の相模湾沿いを走る江ノ島電鉄に乗れば、美しい景色の中でマリンスポーツを楽しんだり、映画・漫画の舞台や、800年以上の歴史を持つ寺院を訪ねたりと、盛りだくさんな旅を楽しむことができる。

「江ノ電」の愛称で親しまれる江ノ島電鉄は、神奈川県藤沢市の藤沢駅から鎌倉市の鎌倉駅まで15駅、10.0kmを約34分で結ぶ電車である。1910年の全線開業以来、地元の人々や観光客の足として利用されている。

2〜4両編成の江ノ電は平均時速22kmというゆっくりとした速度で走っている。

「江ノ電は、海岸、山間、住宅街など様々な場所を走ります。江ノ電の魅力は、そうした場所で、人々の生活や自然の一部となって存在していることです」と江ノ島電鉄観光企画部長の中沢俊之さんは話す。

江ノ電と人々の生活の近さを実感できるのが、藤沢駅から10分程の江ノ島駅と次の腰越駅までの区間である。ここは車両が、路面電車のように道路を走る区間となっており、自動車や歩行者が行き来する中を電車が通る。道幅が狭いため、自動車や歩行者との距離はかなり近くなるが、互いに間合いを見ながら電車は進んでいく。道路の両側に小さな魚屋、飲食店、酒屋などが並ぶ商店街を、ゆっくりと電車が過ぎてゆく風景は、どこか懐かしさを覚える。

腰越駅を過ぎると、電車は七里ガ浜へと抜け、視界が一気に広がる。七里ガ浜沿いの区間は、江ノ電の中でも車窓からの眺めが最も良い所である。七里ガ浜を目の前にする鎌倉高校前駅のプラットホームに降り立ち、太平洋につながる相模湾と木々が茂る江の島をゆっくりと眺めていると、サーフィンを楽しむ人たちの声が、海風と共に聞こえてくる。

江ノ電沿線には自然や文化を堪能できる観光地が多い。特に人気のある観光地の一つが江ノ島駅から歩いて15分程の江の島である。島へは400m弱の橋が架かっており、徒歩や自動車で渡ることができる。島にはその起源が6世紀に遡ると伝えられる江島神社、相模湾や富士山などの景色を海抜約100mの高さから360°のパノラマで楽しめる展望灯台など見所が多い。1964年に東京オリンピックが開催された時に、セーリング会場として使用された江の島ヨットハーバーもある。ここは2020年のオリンピック・パラリンピックで再び会場となる予定である。

鎌倉市にある長谷駅の周辺には、800年以上の歴史を持つ寺院や、神社がある。その中で特に国内外から多くの観光客を集めるのが、鎌倉大仏で有名な高徳院である。鎌倉大仏は高さ約11mで、13世紀に建立されたと伝えられている。当初、大仏は大仏殿の中に収められていたが、地震、津波、暴風雨によって大仏殿の消失が繰り返され、15世紀には現在のように大仏殿がない状態となったとされている。

そして、終点の鎌倉駅は、古都鎌倉の象徴的な存在の鶴岡八幡宮が間近にある。鶴岡八幡宮は鎌倉に幕府を開いた武士、源頼朝(1147-1199)とゆかりの深い神社として知られ、三方を山に囲まれた鎌倉の中心に位置している。

「江ノ電は、電車の走る姿と周囲の景色が相まって、絵葉書のような美しいシーンを生み出すことから、数々の映画、ドラマ、漫画やアニメの舞台にもなっています。それが海外にも広がり、最近は非常に多くの国の方々にご乗車頂いております」と中沢さんは言う。

乗車時間はわずか34分だが、江ノ電に乗れば、相模湾の自然と鎌倉の伝統を目一杯、満喫できるだろう。