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Highlighting JAPAN

CO2フリーのアンモニアを活用する新しいエネルギー社会

2018年10月、製造から発電までCO2を排出しないアンモニア燃料で、世界初のガスタービン発電実験が成功した。CO2フリーのエネルギーサプライチェーン構築への第一歩として期待が集まる。

近年、化石燃料に代わる将来のエネルギー源として、アンモニアが注目を集めている。アンモニアは大量輸送可能であり、燃焼時にCO2を発生しないことが、その大きな理由である。2018年、日本の研究グループが内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エネルギーキャリア」の下、再生可能エネルギーを利用して製造した水素(再エネ水素)からアンモニア(再エネアンモニア)を合成、これを燃料とする発電に世界で初めて成功した。この研究・開発で中心的役割を果たしてきた日揮(株)技術研究所の所長を務める藤村靖さんに話を聞いた。

「現在、日本国内で排出されるCO2の約4割は、化石燃料を燃やす火力発電所から発生していると言われ、これをいかに削減するかが社会的な課題になっています。今、水素が化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして大きな期待を集めていますが、輸送や貯蔵に非常に難しい面もあります。そこで私たちは、太陽光や風力で作った電気で再エネ水素を製造し、さらにその水素から輸送や貯蔵が簡単な再エネアンモニアを合成、それを燃料に発電する方法を考えたわけです」と藤村さんは言う。

アンモニアは、100年以上も前から肥料や合成繊維製造など工業用に生産され、輸送や貯蔵手段が確立されており、タンカーやタンクローリーで安全に運ぶことができる。ただし、現在の工程では、原料となる水素が天然ガスで作られるため、アンモニアの製造段階でのCO2発生が避けられない。

藤村さんによると、再エネ由来のCO2フリー水素を用いたアンモニア合成のカギとなったのは新たな触媒の開発だったと言う。

「従来のアンモニア合成には、天然ガスから作る高温・高圧の水素を用いていました。しかし、太陽光や風力で作る水素を高温・高圧化するには別にエネルギーが必要なため、その段階でCO2が発生してしまいます。そこで私たちはルテニウムという元素を使った触媒を4年がかりで開発し、低温・低圧でも効率よくアンモニアを合成できる技術を開発したのです」

さらにこれとほぼ同じ時期、SIP「エネルギーキャリア」における別の研究グループでは、アンモニアを燃焼させてクリーンに発電する新たな技術を開発していた。これら2つの新技術を組み合わせることにより、2018年8月には産業技術総合研究所福島再生エネルギー研究所において、CO2フリーの水素を用いたアンモニアの合成、そして、そのアンモニアを燃料としたガスタービン発電に成功した。

この成功は、太陽光や風力のエネルギーが豊富な土地で発電を行い、その電力で合成した再エネアンモニアを都市近郊の火力発電所まで安全に輸送し、この燃料で発電した電気を人々が利用する低炭素・水素社会実現に向けて着実な一歩を踏み出したことを意味する。この研究成果は、政府が進める「Society5.0」1の枠組みの中で、新たなエネルギーバリューチェーンと先進的低炭素型スマートコミュニティ構築の重要な手段として組込まれている。

海外の関心も高まってきており、CO2フリーアンモニアのサプライチェーン構築に向けた共同調査・研究などの取組が始まっている。今後の国際的な実用化への協力にも大いに注目していきたい。







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