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Highlighting JAPAN

火山と人の物語

福島県の磐梯山ジオパークでは、火山が生んだダイナミックな自然と、人々の暮らしとの関わりを、数々のストーリーを通して学ぶことができる。

福島県西部の会津地方には、森に囲まれた大小様々な湖沼、清らかな川の流れ、緑あふれる山々など、美しい風景が広がる。その会津地方のシンボルとして古くから人々に親しまれている山が、標高1816メートルの活火山・磐梯山である。

 磐梯山の火山活動は、およそ70万年前に始まり、数万年前には、山の南西側が大規模に崩れ、広い面積を覆う岩なだれが発生した。そして1888年の水蒸気爆発による噴火によって今日の姿が形成された。この噴火では、北側の斜面が大規模に崩壊し、流下した岩なだれが川をせき止めたことで、磐梯山周辺に桧原湖や五色沼を始めとする多くの湖沼群が誕生した。この地域の美しい景観は、世界中の多くの美しい景観と同様に、ダイナミックな地球の営みによって誕生したのである。

 磐梯山を取り巻く地域は、2011年、日本ジオパークに認定された。ジオパークとは、地形・地質的に見て価値の高い場所である地質遺産を多数含む「大地の公園」のことで、これらを保全し、教育に活用し、ジオツーリズム(地形・地質を中心として生態系、さらに地域の歴史・伝統・文化を対象とする観光)による地域の持続的な発展を目指している。現在、この磐梯山を含む44の地域が日本ジオパークに認定されている。

磐梯山ジオパーク協議会事務局の蓮岡真さんは、磐梯山ジオパークの魅力についてこう語る。

「ジオパークの中で、特に大地の成り立ちがわかる見所を『ジオサイト』と呼びます。磐梯山ジオパークには73のジオサイトが存在しますが、私たちはジオサイトを5つのストーリーに関連づけ、訪れた人が理解しやすいように工夫しています」

 5つのストーリーとは、「1888年の噴火をたどる物語」、「磐梯山の麓に根づいた信仰の物語」、「沼と湿原の物語」、「5万年前の噴火をたどる物語」、「大地創造をたどるパノラマ物語」である。エリア別のガイドブックも用意されており、ストーリーに沿ってジオサイトを巡ることで、来訪者は、地形の成り立ちと生態系、そして人々の暮らしとの関わりを感じることができる。

 磐梯山が周辺地域に与えた影響には、ポジティブ、ネガティブの両面がある。例えば磐梯山の南西の麓に位置する磐梯町エリアは、噴火の影響を受けることなく、豊富な伏流水を活用して豊かな農産物を育ててきた。一方、北塩原村や猪苗代町の一部では、1888年の噴火による土石と爆風によって477名もの死者を出す大惨事が起きている。蓮岡さんは、ジオパークの活動を通じて「火山の恵み」と「火山の恐ろしさ」の両面を伝えていきたいと言う。

「1888年、猪苗代町の長坂という地区では、泥流に飲み込まれて86人が犠牲になりました。しかし、この地に残った村人は互いに協力し、必死の思いで復興に取り組みました。その先人たちの思いが引き継がれ、この集落は今も住民が家族のように仲良く暮らしています。このような『火山と人の物語』を地域で共有し、ジオパークを訪れる人に伝えていくのも私たちの仕事です」

 ジオパークには、「地質や地形を通じて、地球の生きた姿を理解する」という意義のほかに、地域の人々を結び付ける効果もあると蓮岡さんは感じている。

「従来は、観光振興や地域資源活用などは、主に自治体単位で行われてきました。ジオパークには、そうした『点』の活動を『面』に変えていく力があります。ジオパークを通じて、多くの地域の人が『磐梯山との関わり』をより意識して頂けるようにすることで、この地域の魅力をさらにアップさせていきたいです」