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Highlighting JAPAN

ロボットを着る

メカニカルエンジニアのきゅんくんは、ロボットをファッションとして着るという斬新なアイデアで、国内外の注目を集めるクリエーターである。

1950年代初めに登場したマンガ「鉄腕アトム」を始め、日本のマンガやアニメの世界では古くからロボットたちがヒーローとして活躍してきた。そうした影響を受けて、ロボットの研究開発の道へと進んだ研究者や技術者も少なくない。実際、日本では工場などで稼働する産業用ロボットのほか、医療や介護、家事支援や災害救助など、多種多様な分野でのロボットの研究開発が盛んである。

1994年生まれの“きゅんくん”も、小学生の時に鉄腕アトムに夢中になったが、従来の経済的・実利的な目的を持ったロボットとは全く異なったロボットの開発で注目を集めている。それが、ファッションとして「メカを着る」という発想を形にしたウェアラブルロボットである。

「小さい頃から親に上野の国立科学博物館に連れて行ってもらっていたせいか、科学や機械が好きでした。そんな私が実際にロボットの開発者になりたいと思ったのは小学5年生くらいのことです。あるTV番組で、ロボットクリエイターの高橋智隆さんが開発した二足歩行の小型ロボット『クロイノ』の動きやその開発風景を見て、将来は自分もこういう仕事をしてみたいと考えるようになったのです」ときゅんくんは言う。

中学生の頃には半田ごてを手に電子工作を始め、高校生の時に部活動として入った「被服部」では、機械の部品や電子基板を取り付けた服など、テクノロジーを軸にした服作りに取り組んだ。そして、大学に入ると、機械工学を学びながら「ロボティクスファッションクリエイター」として作品を作り始め、2016年に、服とロボットを融合させたウェアラブルロボット「METCALF clione」を発表した。METCALF clioneは着用すると、アルミニウムとアクリルでできたロボットアームが背中から羽根のように左右から伸びているように見えるロボットである。アームはスマートフォンを使って動かすことができる。

「ウェアラブルロボットというと、作業支援目的のパワードスーツを連想したり、“身体拡張”をイメージする人も多いようですが、METCALFは全く違います。実用的かどうかではなく、人間とロボットの距離が物理的にゼロになった時、人間は何を感じるのか? どういうことを考えるのか? そうした興味から、METCALFを作りました」ときゅんくんは話す。

METCALFはSNSなどを通じて多くの人に注目されるようになり、海外の大規模な展示会にも招かれるようになった。2016年には、ステージで使用することを前提に作られたMETCALF stageが、アイドルグループAKB48の公演において衣装として採用されることにもなった。この作品はモーションセンサーを搭載しており、人がくるっと回ればアームが広がるといった具合に、人の動きに応じてMETCALF の動きが変化する。

「展示会などでMETCALF を着用した人の感想を聞くと、近くに動物がいるような感じがするので安心する、落ち着く、といった声がとても多いのです」ときゅんくんは話す。

現在、きゅんくんはメカニカルエンジニアとして活動しながら、大学院でロボットを着用した人々の印象を研究する修士論文に取り組んでいる。ファッションとしてロボットを着るということは、人間にとってこれまでにない体験である。きゅんくんの作品から、人間とロボットの全く新しい関係が始まっているのかもしれない。