Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan December 2019 > 日本の若い力

Highlighting JAPAN

分身ロボットでつながる

結城明姫さんは、身体的な障害や距離によって生じる困難を「分身ロボット」によって克服し、誰もが参加できる社会の実現を目指している。

病気などで外出ができなくなっても、もし自分の分身があれば、いつものように学校で授業を受けたり、会社で仕事をすることができる。そうした発想から生まれたのが分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」である。OriHimeはスマホやPCで誰でも簡単に操作ができ、あたかもその場に本人がいるようにコミュニケーションできる。

OriHimeは高さ23センチ、幅17センチ、重さは660グラムで、上半身だけの人形型となっている。カメラ、スピーカー、マイクが内蔵されている。OriHimeをインターネットに接続すると、操作者はPCやスマートフォンを使った遠隔操作によって、頭を動かして視野を変えたり、頭や手の動作で、「はい」や「いいえ」あるいは、喜ぶや悩むといった感情を表すことができる。

このロボットを開発している株式会社オリィ研究所の共同創業者でCOOを務めるのが結城明姫さんである。結城さんは、小さい頃から科学が大好きで、小学校1年生の時にはカタツムリの生態研究により新聞社の科学コンテストで一等賞を獲得したこともある。そして2006年、高校1年の時には高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で流体力学の研究で最優秀の文部科学大臣賞を受賞する。ところが、その直後に結核で長期入院を強いられ、JSEC上位入賞者のみが出場できるインテル国際学生フェア(ISEF)への参加を断念せざるを得なくなってしまった。翌年、結城さんは悔しさをバネにJSEC入賞とISEF出場を果たすが、その時に知り合ったのが2004年のISEC文部科学大臣賞の受賞者で、後にオリィ研究所のCEOになる吉藤オリィさんだった。

「小学校から中学校にかけて病気や不登校で非常に苦労したという吉藤が、私たちに語ってくれたのは、ロボットが孤独を解消してくれるというOriHimeの基本コンセプトでした。それはまさに病気でISEFに参加できなかった私が感じていたことでもあったのでたちまち意気投合しました。そしてJSECを通じて知り合った他の仲間と共に分身ロボットのプロジェクトを立ち上げることになったのです」と結城さんは言う。

まず2009年に出来上がったOriHimeのプロトタイプは、手足のある人形型をしていたため、操作が難しく、倒れやすいなど実用化には多くの問題を抱えていた。そこから試行錯誤を重ね、2013年になって現在のような首と両腕だけが動くスタイルが完成する。その後、2016年には量産化にもこぎ着け、月額レンタルという形で多くのユーザーに提供できるようになった。

「現在、OriHimeはテレワークを積極的に推進する大企業、病院や個人に提供しています。操作者からは、OriHimeを介して周囲を見たり、聞いたりしていると、まるでオフィスにいるような感覚になるということをよく耳にします。一方、職場などでOriHimeと接する人は、声だけでなく首や腕の動きにも操作者の個性が現れてくると言います。つまりOriHimeは意思や気持ちだけでなく、存在感まで伝達できるテクノロジーなのです」と結城さんは言う。

これまでオリィ研究所では、より多くのOriHimeを提供することに重点を絞って事業を行ってきたが、今後は新たな取組を展開していく予定だと言う。その一つが、簡単な肉体労働ができる全長約120センチの新型分身ロボット「OriHime-D」を用いた「分身ロボットカフェDAWN」という公開実験である。そこではALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病や重度の障害を持つ人が、目線だけで操作できる意思伝達装置「OriHime eye」を使ってOriHime-Dを操作し、接客の仕事を行っている。

「このカフェでは、それまで一度も仕事をしたことのない寝たきりの人にも働く歓びを感じてもらっています。また、人材不足に悩む企業の方には、従来のテレワークにはない、全く新たな働き方があることを提案しています」と結城さんは言う。

OriHimeという新たなテクノロジーで様々な制約を乗り越え、人と人、人と社会をつなぐ結城さんたちの活動に、今大きな注目が集まっている。