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April 2020

佐渡の空を舞うトキ

新潟県の佐渡島では一時姿を消したトキが、長年にわたる人工繁殖や生息環境の整備などにより、野生復帰を果たしている。

羽ばたく「鴇色」(ときいろ)の羽のトキ

トキ(学名:ニッポニア・ニッポン)は全長70~80センチメートル、翼開長130センチメートルほどの鳥で、繁殖期以外は全身を白っぽい羽に覆われている。翼を広げて飛んでいる時には淡い桃紅色をした風切り羽を見ることができ、その美しい羽の色は古くから日本では「鴇色」(ときいろ)と呼ばれてきた。

トキは東アジアの広い範囲に分布し、19世紀中頃までは日本中の田園地帯でごく当たり前に目にすることのできる鳥だった。ところが、明治以降に乱獲され、たちまち数を減らしてしまう。さらに、第二次世界大戦後に、田んぼで農薬が広範で使われるようになると、餌となる小魚、カエル、昆虫が減少するなど生息環境が大きく変化したため一気に絶滅の危機にひんした。

1952年には国の特別天然記念物にも指定されたが、個体数の減少に歯止めはかからなかった。こうしたことから新潟県は、1967年にトキの最後の生息地、新潟県の離島の佐渡島の佐渡市(旧新穂村)に保護センターを開設した。

「当センターの役割は、人工繁殖や自然繁殖で産まれたひなを育て、野生順化の訓練を行い、屋外に放鳥することです」と、現在、佐渡トキ保護センターの所長を務める木村公文さんは言う。

田んぼを群れ歩くトキ

1981年に環境省は、佐渡島に生息していた国内最後のトキ5羽をすべて捕獲し、人工繁殖に取り組み始めた。この野生環境から飼育環境に移った時点で、日本のトキは野生絶滅種となり、2003年に野生で生まれた最後の1羽が子孫を残すことなく死亡してしまった。しかしながら1999年に中国から寄贈されたつがいから初めての人工繁殖に成功する。同センターは、繁殖や飼育の方法に改良を重ね、飼育されるトキは少しずつ数を増やしていったのである。

トキの飼育数が増加するとともに、トキが野生で生きていくための周囲の環境作りも行われた。佐渡市はビオトープの整備や子供向けの環境学習を実施、地元農家はトキの餌となる生物を生息させるために、冬にも田んぼに水を張る、田んぼと水源をつなぐ魚道を設置する、農薬・化学肥料を削減するなどの「生きものを育む農法」によるコメの栽培を進めた。この農法で栽培されたコメは「朱鷺(トキ)と暮らす郷」として市から認定され、2007年から販売されている。

「2008年には保護センターで生まれ育った10羽のトキを初めて放鳥し、2012年には自然界では36年ぶりとなるヒナも誕生しました。国や地元自治体、地域住民が一体となった活動が実を結んだのです」と木村さんは言う。

現在トキは、佐渡に加え、新潟県長岡市の飼育センターや東京都日野市の多摩動物公園などの施設でも飼育されており、その合計数は176羽になる。一方、佐渡島に生息する野生のトキの数は約400羽まで増えた。佐渡から海を渡ったトキが本州でも目撃されるようになっている。

野生のトキを簡単に目にすることはできないが、佐渡トキ保護センターの隣には「トキの森公園」があり、トキの剥製や野生復帰の取組を紹介した資料の展示の他、ケージの中で飼育されているトキの姿を観察できる。

佐渡では、鴇色の美しい翼を持つ繊細な鳥が安心して生きていけるよう、多くの人々が力を合わせ、見守り続けている。