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April 2020

街を走る路面電車の旅

東京の世田谷線は都内では珍しくなった路面電車が走っている。気軽に途中下車しながら、古き良き雰囲気が残る町を訪れる旅を楽しめる路線である。

東急電鉄の世田谷線は、東京都世田谷区の三軒茶屋駅と下高井戸駅を17分で結ぶ10駅、5キロの路線で、2両編成の路面電車が走っている。かつて東京では路面電車が数多く走っていたが、自動車の増加により次々と路線が廃止され、現在では都電荒川線(東京さくらトラム)と世田谷線を残すのみとなった。世田谷区は、明治時代までは農村地域であったが、1923年に発生した関東大震災の被災者が移り始めたことがきっかけとなり、住宅地として発展していった。1925年に全線が開通した世田谷線は、渋谷駅と玉川駅(現在の世田谷区の二子玉川駅)を結ぶ玉川線の支線であった。なお、玉川線の渋谷~二子玉川園間は1969年に廃止されたが、三軒茶屋から下高井戸駅間は独立して残り、世田谷線と名称を変え、現在に至っている。

世田谷区は渋谷や新宿といった都心に近いこともあり、住宅地として非常に人気が高く、人口は90万人を超える。世田谷線沿いには、線路の間近まで住宅やアパートが立ち並んでいる。世田谷線は、地域住民の足として通勤通学や買物に利用されているが、沿線には歴史的な寺社、レトロな雰囲気を残す商店街などの見所が多く、都内観光にも便利な路線として人気である。

世田谷線の始発となる三軒茶屋駅の「三軒茶屋」は「三軒の茶屋」の意味で、江戸時代、三軒の茶屋があったことに由来するが、今や駅周辺には何百軒もの飲食店が密集する沿線随一の繁華街となっている。駅の隣には、外壁の色がニンジンの色に似ていることからその名が付けられた地上27階建ての「キャロットタワー」が建っている。ビルには劇場、スーパー、オフィスなどの施設が入っているほか、26階には展望ロビーがある。周辺に高層ビルがないため、眺望が素晴らしく、世田谷の街はもちろんのこと、渋谷や新宿の高層ビル街、そして、晴れた日には富士山をはっきりと見ることができる。

世田谷線沿線で特に観光客に人気なのが、宮の坂駅から徒歩5分の豪徳寺である。1480年に創建された豪徳寺は、江戸時代に世田谷を所領地としていた彦根藩(現在の滋賀県)・井伊家の菩提寺であった。江戸時代初期、鷹狩りの帰りに寺の前を通りがかった彦根藩2代目藩主の井伊直孝が、住職が飼っていた猫に手招きされ寺に入ったことで、直後の雷雨を逃れたという伝説があり、これが幸運を招く置物として日本で広く親しまれている「招き猫」の由来と言われる。境内にある招福殿の横には、大小様々な招き猫が1,000体以上置かれており、その様子がインスタ映えスポットとして人気となり、国内外から数多くの人が訪れている。世田谷線では、この招き猫にちなみ、車体に招き猫をデザインし、車内のつり革には招き猫型のつり手を付け、床には猫の足跡を描いた車両を運行している。

沿線の有名な神社に松陰神社がある。松陰神社前駅から徒歩3分ほどに建つこの神社は、江戸時代末期の思想家、教育者の吉田松陰を祀った神社である。吉田は山口県萩市にある松下村塾という私塾で、1868年の明治維新の立役者となった多くの若者に教えを授けたことで知られる。境内には松下村塾を復元した建物がある。

世田谷線沿線では、一年を通じて様々なイベントが開催されているが、その中でも特に多くの人を集めるのが、1月と12月にそれぞれ2日間開かれるフリーマーケット「ボロ市」である。400年以上の歴史があると言われるこの市は、上町駅から徒歩3分のボロ市通りとその周辺で行われ、古着、骨董、玩具、日用品、植木、食べ物などを売る店が700店以上並び、1日で20万人もの人が集まる。

沿線には、お洒落なレストラン、美味しいスイーツが食べられるカフェ、店員との会話を楽しめる小さな商店も多い。世田谷線の魅力は10駅ある世田谷線の各駅間の距離がすべて1キロメートル以下という短さにもある。電車から気になる店や景色が見えたら、次の駅で気軽に降りられる。路面電車で、途中下車をしながら、街や人との近さを感じる旅を味わってはいかがだろうか。