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  • ロンドンでの展示「Slices of Time (時間の断片)」の前のエマニュエル・ムホーさん
  • 国立新美術館の「数字の森」
  • ムホーさんの建築の代表作である巣鴨信用金庫

July 2020

色切(shikiri):色で空間を「仕切る」

ロンドンでの展示「Slices of Time (時間の断片)」の前のエマニュエル・ムホーさん

東京の街にあふれる複雑な色の層に衝撃を受けて、1996年に日本に移住したフランス出身のエマニュエル・ムホー(Emmanuelle Moureaux)さん。建築家であり、アーティストでもあり、また、デザイナーでもある彼女は、自らが感じた色の喜びと魅力を、作品を通じて表現している。

国立新美術館の「数字の森」

「“色”は人々に元気を与えてくれる。人々を笑顔にしてくれる」とフランス出身のエマニュエル・ムホーさんは語る。

ムホーさんは、“色”をメイン・テーマにしたインスタレーションを世界各国で発表し続けている。インスタレーションは、場所や展示スペースに合わせて媒体の形を変化させて空間を構成するものであるが、彼女は色を媒体として空間を構成している。彼女の代表作『100 colors』のシリーズのインスタレーションは、布や紙などの色彩豊かな材料を幾層にも重ねて空間をつくり出す。それらの材料は大きく平面的な形や、幾何学的な形をしているが、天井から吊り下げられ、幾層にも重なる暖簾のように揺れ動く作品も多い。数字の形を連ねた「数字の森」や、平仮名の形そのものを連ねた「ことばの宇宙」など3次元的な作品がつくられている。シリーズの作品は、それぞれ100色をモチーフとして、その時と場所に応じたものとなっている。

そうした作品群を生み出すインスピレーションをムホーさんに与えたのは、東京の街並みだという。「建築を学んでいたフランスの大学で、卒業論文のテーマを『東京』にしたことがきっかけで来日しました。初めて見る東京の街は、無数の色が三次元のレイヤー(階層)となってどこまでも連なっていた。視線が1点に集中するパースペクティブ(遠近法)による整然としたフランスの街並みと全く違う。その時に感じた、湧き出るような衝撃的なエモーション(情動)は今も忘れません」とムホーさんは話す。東京に来て、わずか1時間もたたないうちに日本に住むことを決意したムホーさんは、翌1996年に東京に移住、2003年に日本で一級建築士の資格を取り、事務所『emmanuelle moureaux architecture + design』を開設した。

日本での活動の当初からムホーさんがコンセプトにしている『色切/shikiri』は、“色”と“仕切り”を掛け合わせたムホーさんの造語である。

ムホーさんの建築の代表作である巣鴨信用金庫

「いざ東京に住んでみると、日本の現代建築やデザインには色がほとんど使われていないことに気がつきました。私が優れた文化だと思っていた、襖(ふすま)や障子で空間を仕切る日本の伝統的な建築も消えつつある。その2つのエッセンスを取り入れ、改めて現代に発信しようと考えたのが『色切/shikiri』です」とムホーさんは言う。

そのコンセプトが発揮されたのがムホーさんの建築の代表作である巣鴨信用金庫の6つの支店である。いずれも、“色”は単なる仕上げのアクセントではなく、建物の重要な構成要素そのものになっている。カラフルな正面の外観デザインと、街の休憩所も兼ねる室内オープンスペースを設けた店舗は、日本の銀行の建物の常識を覆す設計でありながら、中で働く人々にも居心地が良く、またその街に住む人々にとっても親しみを持てる新しいランドマークとなった。

「私の作品はたくさんの色を使いますが、街に残り続けるものをつくる時には、周りの環境はもちろん、作品の持つ意味やメッセージを特に熟考しています」とムホーさんは話す。2020年、東京都立川市の新街区『GREEN SPRINGS』のために作成したパブリックアート『mirai』もその一つである。2020年から2119年までの年数をそれぞれの色で表すことで100年分の未来を100色で視覚化した意欲作は、置かれた空間になじみながら、一瞬にして人々の心を動かしている。

ムホーさんは「私たちはたくさんの色に囲まれて過ごしているはずですが、普段、“色”について特別に意識することはほとんどないと思います。私は、私が初めて東京を訪れた時に感じたようなエモーションを、多くの人々にも感じてほしいと思いながら作品をつくっています」と言う。

都市を印象的に彩るムホーさんの数々の作品は、“色”が私たちに豊かな感情を与えることを示し続けてくれるだろう。