Skip to Content

INDEX

  • 金継ぎを行うナカムラクニオさん
  • ナカムラクニオさんによる金継ぎワークショップ
  • 金継ぎで直した茶碗

August 2020

割れたり欠けたりした陶磁器を生かす「金継ぎ」

金継ぎを行うナカムラクニオさん

日本には、割れてしまった陶磁器をつなぎ合わせ漆で接着し、そのつなぎ目を金や銀の粉を塗って装飾して利用し続ける「金継ぎ」という伝統的な修復方法がある。今、この技法を、日本国内のみならず海外へも普及しようとする取組が始められている。

金継ぎで直した茶碗

日本では、16世紀、千利休によって完成されたもてなしの文化“茶の湯”の流行とともに、茶道具も発達した。抹茶を点てて、味わうために手にとる茶碗は当初、中国や朝鮮から輸入したりしたが、やがて日本各地で盛んに制作されるようなった。その中には現在、国宝に指定されているものすらある。しかし、どんなに大切に扱っていても、どうしても割れたり、欠けたりするものも出てくる。そうした茶碗の割れ、欠けの部分に漆を入れてつなぎ、金や銀で彩色する修復技術が金継ぎであり日本独自の伝統的な技術とされる。

金継ぎのワークショップなど普及活動をしている東京・荻窪のブックカフェ「6次元」店主のナカムラクニオさんは、その発祥についてこう語る。

「金継ぎは、不完全さの中にこそ美しさがあります。これは、茶の湯で大切にされる『わび・さび』と呼ばれる概念から生まれたものだと思います。簡素の中に、豊かさを感じる日本独自の美意識です」

茶の湯の世界では、完全な器をわざと割り、修復することもあった。そして、金継ぎによってできた傷の模様を美しい自然の「景色」に見立てて楽しんだ。

金継ぎで直した茶碗

「器のヒビ割れは、ドラマチックな風景画です。壊れた部分に沿って金の彩色が入ると、暗闇に光る雷、あるいは黄金色の川のように見えます。または大空に伸びる大枝など、器に新たな景色が生まれます」

少年の頃から骨董品を収集していたというナカムラさんが、金継ぎに出会ったのは30代の頃。当時、テレビ番組のディレクターとして働いていたことから、全国の金継ぎの工房などを取材し、独学でその技術を学んでいった。

金継ぎの需要が高まったのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災後。ナカムラさんは被災地で壊れてしまった器を修復するワークショップを開催した。亡くなった親族の形見や大切な思い出の器を、美しくよみがえらせた金継ぎの技法は、傷ついた人々の心も癒やした。「形見の品だけではなく、自分自身が修復された気持ちになりました」と書かれた手紙を受け取ったこともあったという。現在、ナカムラさんはブックカフェを営む傍ら、金継ぎや古美術に関する本を執筆し、国内外で金継ぎの普及や被災地での支援活動に取り組んでいる。

しかし、この伝統的な金継ぎの技法で使われる漆は、肌がかぶれる危険性があり、海外での使用はなかなか難しい。そこで、海外からの愛好者も参加するナカムラさんのワークショップでは、植物由来の樹脂などの安全な素材を使っている。さらに今後は、製造の過程で正当な価格で輸入され自然環境に対する負荷の少ないフェアトレードの材料、動物の毛を使わない筆を活用した金継ぎの技法を普及し、「新しい伝統」を創る必要がある、とナカムラさんは言う。

ナカムラクニオさんによる金継ぎワークショップ

そして、「昨年、アメリカで『Kintsugi』というショートフィルムがサンダンス映画祭で上映され、ますます生徒が増えました。今後、ブームが加速していくように感じています」とも述べる。

2019年末には、アメリカ・ロサンゼルスを拠点とし、ニューヨークのギャラリーと提携して「キンツギアカデミー」を開校した。現在はコロナ対策のためオンラインで授業をしているが、今後は世界中でワークショップ、作品展なども開く予定もあり、金継ぎの”癒しの力”がさらに広く海外にも伝わるだろう。