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  • 大蕨の棚田

October 2020

黄金色の稲穂を守る

大蕨の棚田

秋には黄金色(こがねいろ)に染まる、山形県山辺町大蕨(やまのべまち おおわらび)の棚田は、地元農家とボランティアの手で守られている。

東北地方は日本を代表する米作地帯であり、平野部には豊かな田園が広がり 山間部には斜面を開墾した棚田が点在し、春の田植えの時期には緑色に、秋の収穫期には黄金色に輝く。黄金色は、春に日本全国に咲くヤマブキの花のように、赤みがかった黄色「山吹(やまぶき)色」に由来するという。鮮やかな金色であり、江戸時代(1603~1868)には、正しく黄金色の大判、小判を「山吹色」とも呼んでいた。

そして、稲作の盛んな日本では、秋の日差しに輝く実った稲穂を感謝と喜びの念をもって「黄金色」と表現した。収穫期には平地の水田は黄金色の絨毯を敷いたようであり、山間の棚田は斜面一帯が黄金色に染まり、風に吹かれて金色の波が揺れる。

山形県山辺町にある「大蕨の棚田」は周囲の山の緑を背景に、黄金色が美しく映え、秋の収穫期には田んぼの畔道(あぜみち)に「杭掛(くいが)け」と呼ばれる天日干しの杭が立ち並ぶ美しい光景で知られている。

「黄金色に色づいた稲が風に揺られてゆったりとうねり、稲刈りを終えた棚田には杭掛けの列が幾重にも連なる。これこそが実りの秋を象徴する日本の原風景だと思うのですよ」と話すのは棚田の再生と地域の活性化に取り組むボランティア団体「グループ農夫の会」の代表、稲村和之さんである。一面が純白の雪に覆い尽くされる冬、田植えのため水を張った棚田が鏡のように青い空や白い雲を映し出す春、山の緑が青々と茂る中で稲が成長する夏、そして黄金色に輝く秋。季節ごとに人の目を楽しませてくれる棚田の姿の中でも、稲村さんが最も素晴らしいと感じるのは、やはり実ったお米で稲穂の頭が垂れ下がる収穫の秋だという。

江戸時代初期から続く大蕨の棚田であるが、近年、担い手が減少してきた。危機感を募らせた稲村さんは「グループ農夫の会」を立ち上げ、ボランティアを募り、地元の農家とともに棚田の保全に取組んでいる。

棚田の最上部まで黄金色の稲穂がたわわに実り、畔道に並ぶ杭掛けもまた山の緑を背に黄金色の輝きを放つ。大蕨地区の格別の美しさを守る稲村さんたちの活動は続く。