Skip to Content

INDEX

  • 烏泥外縁袋式長方鉢(五葉松 銘「青龍(せいりゅう)」、推定樹齢 350年)
  • 烏泥山水文楕円鉢(19世紀、中国江蘇省・宜興窯、盆栽の愛好家として知られた大隈重信旧蔵)
  • 紫泥袋式楕円鉢(梅(品種名:思いのまま)、推定樹齢120年)
  • 外縁隅入下二本紐長方鉢(黒松 銘「獅子の舞」、推定樹齢100年)(中野行山(常滑の現代作家)作)
  • 瑠璃釉染付石榴文石台型鉢(19世紀、瀬戸)

January 2021

盆栽用の鉢「盆器」

烏泥外縁袋式長方鉢(五葉松 銘「青龍(せいりゅう)」、推定樹齢 350年)

近年、日本の「盆栽」が世界的に広がりを見せるのと同時に、専用の器「盆器」にも注目が集まっている。

烏泥山水文楕円鉢(19世紀、中国江蘇省・宜興窯、盆栽の愛好家として知られた大隈重信旧蔵)

草木を鉢植えして鑑賞する「盆栽」が日本語のまま“bonsai”として世界に広がっている。愛好者の数も増えており、盆栽界のワールドカップと言われるイベント「世界盆栽大会」が1989年から日本を皮切りに4年ごとにアメリカ、ドイツ、プエルトリコ、韓国、中国で開催されたほか、日本から、アジアや欧州各国への盆栽の輸出も増えている。

盆栽の美学は、自然の一風景を理想的な姿で鉢の中に表現するところにある。埼玉県さいたま市にある大宮盆栽美術館の学芸員、田口文哉さんは、「盆栽用の鉢は、愛好者の間では『盆器』と呼ばれています。植え込む樹木の樹形や樹種などに鉢の形や大きさを合わせる『鉢合わせ』、樹木と鉢の見た目の調和を意味する『鉢映り』といった盆栽用語もあり、盆器の選び方は盆栽にとってとても重要です」と語る。つまり、盆栽は植える樹木と、器とを一体のものとして鑑賞するものだと言うのである。

紫泥袋式楕円鉢(梅(品種名:思いのまま)、推定樹齢120年)

盆器の形は、丸鉢、長方鉢、楕円鉢、六角鉢など多種多様であり、盆栽の「盆」という字が示すとおり、樹木を小さく生長させるため、一般的な鉢植え用の深鉢に比べ、基本的に底の浅い薄鉢が用いられる。また、盆器の表面は無地の盆器もあれば、空想上の動物や植物など、いわゆる吉祥紋様が描かれるものもある。窯元(かまもと)は、主に愛知県の常滑(とこなめ)焼、瀬戸焼、三重県の萬古(ばんこ)焼、滋賀県の信楽焼、石川県の九谷焼、佐賀県の有田焼などである。

江戸時代後期(18世紀中頃から19世紀)における園芸ブームでは、瀬戸を中心として染付の技法で製作された華やかな磁器の植木鉢が全国に広がったが、近代以降は中国江蘇省の宜興窯(ぎこうよう)で製作された渋みのある陶製の盆器が盛んに輸入され、盆器のスタンダードとなった。現在では、宜興窯の盆器に学び技法を発展させてきた常滑の盆器が盆栽家の厚い信頼を集めており、窯元を挙げて盆器制作に当たっている。常滑の盆器は宜興の名品と同じく高温焼成された陶器で、滋味があり滑らかな陶質を見せるとともに、透湿性と通気性に優れており、盆栽に欠かせない落ち着いた品格と生育上の配慮が兼ね備えられている。

外縁隅入下二本紐長方鉢(黒松 銘「獅子の舞」、推定樹齢100年)(中野行山(常滑の現代作家)作)

現在まで、常滑焼の盆器は様々な種類の樹木に合うように色や形、その素材にも工夫を重ねている。中には、樹齢数百年を超える樹木もあり、その風格に調和するよう、土の配合を工夫して盆器を焼き上げている。近年は、屋内で楽しむ小さな盆栽の流行に合わせて、小ぶりでデザイン性の高い盆器を焼く作家が登場して、盆栽の世界が更に広がっている。

第8回「世界盆栽大会」は、2017年に埼玉県さいたま市で開催され、3日間で海外からの来訪者を含む約4万5千人が来場した。第9回は新型コロナウイルス感染症の影響で一年延期となり、2022年にオーストラリア西部の都市パースで開催される予定である。そういった盆栽を見る機会には、樹木とともに、盆器にも目を向けて鑑賞すれば、盆栽の面白さも倍加するにちがいない。

瑠璃釉染付石榴文石台型鉢(19世紀、瀬戸)