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  • ケビン・ショートさん
  • ショートさんと自然観察会の参加者
  • 自然観察会で使われるショートさんのイラストが入った情報カード

February 2021

里山―人と自然が出会う場所

ケビン・ショートさん

アメリカ出身の文化人類学者でナチュラリストのケビン・ショートさんは、長年にわたり日本から里山の魅力を著作や講演などの活動を通じて発信している。

ショートさんと自然観察会の参加者

日本には「里山」あるいは「里地」と呼ばれる昔ながらの田園風景が広がる場所が全国各地に多数ある。環境省によれば、里山は「集落を取り巻く農地、ため池、二次林と人工林、草原などで構成される地域」である。自然地域と都市地域の中間に多く見られ、人の働きかけを通じて、その環境や景観が維持されている。

そうした里山に関する調査研究、執筆や講演などの活動を行っているのが、アメリカ出身のケビン・ショートさんである。ショートさんが初来日したのは1972年。神奈川県座間市のアメリカ軍基地で通信システムの維持管理を担っていた。休日に国内を旅して回るうち、日本の自然や文化、歴史に興味を抱くようになった。夜間に上智大学に通い、1975年に卒業し、スタンフォード大学で文化人類学を専攻し1991年に博士号を取得した。2020年3月までは千葉県千葉市の東京情報大学の教授として研究と教育に当たり、退職後の現在は里山や、日本における人と自然界との関係の研究に専念している。特に、そのスピリチュアルな要素に関心を寄せている。

ショートさんは、1980年に結婚して子供が生まれ、1987年から千葉県北西部、東京都心と成田空港の間にある大規模住宅地である千葉ニュータウンに住むようになった。そこは宅地開発前には田園地帯で、現在も田んぼ、ため池、雑木林など里山の風景が残っている。研究活動にとって最適な環境で、ショートさんは里山の成り立ちや在り方についてフィールドワークを続けてきた。

ショートさんは「里山には長い年月をかけた日本人のスピリチュアルな文化が根付いている」と言う。日本のフォーク・スピリチュアリティ(民間信仰)は、人間が自然の恵みに大きく頼っているという強い信念をベースにしている。人々は、こうした恵みを当然のこととは考えておらず、祈り、儀式、祭りにおいて、常に感謝の念を表す。例えば、かつて猟師がシカ、イノシシ、クマを獲った時には山の神への感謝を唱えていたし、人々は、集落の守り神を祀る「鎮守社」を建てている。そうした神社の多くは「鎮守の森」に囲まれており、その森には様々な野花、フクロウやキツツキなどの鳥が生息している。それが今日、常緑広葉樹の大木が生い茂る、その地域の昔ながらの自然の姿をとどめる美しく豊かな森として各地に残っている。

「人々の日々の暮らし、そして自然界における人間の役割に関する思想や価値観が、自然環境の中で互いに作用しあって作り上げた景観が里山なのです」とショートさんは語る。

自然観察会で使われるショートさんのイラストが入った情報カード

30年以上にわたりショートさんはそんな里山への思いや考察を、新聞の連載コラムに書き、また、著書『ケビンの里山自然観察記』や、東京の植物や動物に関する英語のガイドブック「Nature in Tokyo」にまとめた。著書には、文章と合わせて、ショートさんが描いたイラストや撮影した写真も多く添えられている。それらの内容は動植物、民間信仰や伝承など、里山のあらゆる面に及ぶ。イラストの柔らかく温かいタッチに、日本の自然や文化への深い理解が表れている。

ショートさんは、千葉県各地の里山で行われるネイチャーハイクや自然観察会の案内役も務める。こうした活動を支援する団体の一つ、非営利団体「Y・Y・NOWSON」は2014年に、地元の自然農法や地元産食材を研究するグループが立ち上げた。この団体は、里山保全と農村の体験学習を目的に、東京情報大学と連携している。ショートさんは、執筆、講演、自然体験プログラムを続けながら、今後はSNSなどを活用して更に発信力を強めたいと考えている。

「自然と人間が共生共存し持続可能な暮らしを築く、日本の昔ながらの里山は、環境問題が深刻な今、世界的に意味や価値があると思っています」とショートさんは話す。「里山のルーツを探るために、古い日本神話や民間信仰を読み解いて、そのエピソードの伝承地を歩き回りたい」と語る。

ショートさんは、日本人が島国の中で発展させてきた、人間と自然との独自の関係性を理解するために人生を捧げてきた。彼は里山のような文化的景観に情熱を傾けている。そして、それから日本や世界の人が学ぶことは多いと信じている。