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  • 葛飾北斎「東海道品川御殿山ノ不二」
  • 歌川広重「上野清水堂不忍ノ池」
  • 葛飾北斎「桜に鷹」

April 2021

浮世絵の中の桜

葛飾北斎「東海道品川御殿山ノ不二」

浮世絵に描かれた桜の絵を見ると、桜が江戸(現在の東京)の人々の心を捉えてきたことが分かる。

歌川広重「上野清水堂不忍ノ池」

江戸時代に発達した芸術、浮世絵。多くの浮世絵師が木版画から色彩豊かな作品を生み出した。浮世絵には観光地、自然、人気役者、力士、蕎麦や天ぷらなどの、様々な題材があった。

「その一つに桜の風景があります。浮世絵には人々がにぎわう様子を描く特色があり、花見の人々でにぎわう桜の名所も多く描かれました」と話すのは、日本有数の浮世絵専門の美術館である太田記念美術館の学芸員、日野原健司さんである。浮世絵を見れば、江戸時代から身分を問わず、人々が桜の花を愛(め)でていたことが分かると言う。

中でも代表的な作品として、歌川広重が描いた「名所江戸百景」のうちの二枚、「上野清水堂不忍ノ池(しのばずのいけ)」と「隅田川水神(すいじん)の森真崎(もりまっさき)」、そして葛飾北斎の「冨嶽(ふがく)三十六景」の中の「東海道品川御殿山ノ不二(ごてんやまのふじ)」を挙げる。

「それぞれ名所を描いた、桜を含めた風景全体が見どころです。現在も花見の人気スポットであるところもあれば、そうでない場所もありますが、江戸の当時の景色を浮世絵で見て、現在の景色と見比べて見ることは興味深いのではないでしょうか」

葛飾北斎「桜に鷹」

桜は、浮世絵の版木にも使われた。

「ヤマザクラは硬すぎず柔らかすぎず、彫るのに適した硬さだったと思います」

2020年には、葛飾北斎が描いた「桜に鷹(たか)」の版木が発見された。その「桜に鷹」は、名所を描いた作品とは異なり、桜の花と鷹が大きく描かれている。

「花と鳥を組み合わせた花鳥画は、吉祥の図として昔から描かれてきた題材です。この人気の浮世絵の題材は、自然を愛する日本人の好みが良く表れていると思います」

自然の桜は、自然のはかなさを表し、そして、鷹は、千里を見通し大空に飛翔する力強さから、勇壮さと先見性を象徴するという。「桜に鷹」は、この両方を組み合わせた構図による珠玉の一品とされている。