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  • 2021年3月26日に開催された歌会始の儀
  • 歌会始の儀における天皇陛下(中央)及び皇后陛下(中央右より)と皇族方

June 2021

歌会始の儀

2021年3月26日に開催された歌会始の儀

宮中の年中行事である「歌会始の儀」が、今年3月26日、皇居・宮殿「松の間」において催されました。例年1月に開催されていた行事ですが、新型コロナウイルス感染症の影響にかんがみ、今年は、3月の開催となりました。

歌会始の儀における天皇陛下(中央)及び皇后陛下(中央右より)と皇族方

「歌会始の儀」の沿革

人々が集まって共通の題で和歌(注1)を詠(よ)み、その歌を披講(注2)する会を「歌会(うたかい)」といいます。既に奈良時代(710年~794年)に行われていたことが、「万葉集」(注3)によって知ることができます。

天皇がお催しになる歌会を「歌御会」(うたごかい)と言います。中でも、年の始めの歌会としてお催しになる歌御会を「歌御会始」(うたごかいはじめ)と言いました。歌御会始の起源は、必ずしも明らかではありません。しかし、鎌倉時代(12世紀末~1333年)中期、亀山天皇の御代の1267年1月に、宮中で歌御会が行われていることが記録として残っています。以後、年の始めの歌御会として位置付けられた歌会の記録が断続的に見られます。このことから、歌御会始の起源は、鎌倉時代中期までは遡ると考えられています。

近世、歌御会始は、江戸時代(1603年~1867年)を通じて、ほぼ毎年催されました。明治時代(1868年~1912年)以後は、1869年1月に明治天皇により、即位後最初の会が開かれました。以後、改革を加えられながら今日まで連綿と続けられています。

1874年には、一般国民の詠進が認められ、それまでのように皇族・貴顕・側近などだけでなく、国民も宮中の歌会に参加できるようになりました。

1879年には、一般の詠進歌のうち、特に優れたものを「選歌」とし、歌御会始で披講されることとなりました。これは、宮中の歌会始の歴史の中でも画期的な改革であり、今日の国民参加の歌会始の根幹が確立されたものであります。

1882年からは、御製(ぎょせい。天皇がお詠みになった和歌)を始め、選歌までが新聞に発表されるようになり、1884年からは官報にも掲載されるようになりました。

1926年には、皇室儀制令が制定され、その中で歌会始の式次第が定められました。これにより、古くから歌御会始と言われていたものが、以後は「歌会始」と言うことになりました。

先の大戦後は、広く一般の詠進を求めるため、お題は平易なものとされました。また、預選者は、歌会始の儀の式場への参入が認められ、天皇皇后両陛下の拝謁や選者との懇談の機会が設けられるようになりました。さらに、テレビの中継放送が導入されて、多数の人々が歌会始に親しむことができるようになりました。こうして歌会始への国民参加は、ますます促進されました。

結果として、長い歴史を有する宮中の歌会始は、世界に類のない国民参加の文化行事となりました。今年の詠進歌数は14,102、昨年(2020年)は16,002でした。このように、「歌会始の儀」が、皇室と日本国民の心を親しく結ぶものとなっています。また、和歌の詠進は、日本のみならず海外からも寄せられており、日本の伝統文化の中心をなすと言われている和歌が、世界へも広がりつつあります。

「歌会始の儀」の次第

歌会始の儀では、天皇皇后両陛下の御前で、一般から詠進して選に預かった歌、選者の歌、召人(めしうど(注4))の歌、皇族殿下のお歌、皇后陛下の御歌(みうた)と続き、最後に御製が披講されます(今年の両陛下のお歌:別掲)。皇嗣殿下を始め皇族方が列席され、国務大臣,日本芸術院会員、選歌として選ばれた詠進者などが陪聴します。

お題については、歌会始の儀をお催しになる天皇陛下がお定めになります。今年のお題は「実(じつ)」でした。

この儀式における和歌の披講は、「読師(どくじ)」(司会役)、「講師(こうじ)」(全句を節をつけずに読む役)、「発声(はっせい)」(第一句から節をつけて歌う役)、及び「講頌(こうしょう)」(第二句以下を発声に合わせて歌う役)の諸役によって進行されます。

注記: 本記事は宮内庁の了解の上、同庁の公表資料に基づき作成している。

(注1) 日本の古典詩歌。原則31音で詠(よ)み、「五・七・五・七・七」の五つの句で構成。現在では、「短歌」とも言う。(参考:2020年10月号:https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202010/202010_02_jp.html)
(注2) 歌会において一定の作法によって和歌を読み上げ、歌うこと。
(注3) 日本で最古の歌集。7世紀後半から編さんされたと言われ、天皇から一般庶民に至るまでの和歌を広く収めている。
(注4) 天皇から特に召されて和歌を詠む者。



2021年「歌会始の儀」における天皇皇后両陛下のお歌(お題:「実(じつ)」)

御製

人々の願ひと努力が実を結び平らけき世の到るを祈る

天皇皇后両陛下には、昨年、世界全体で新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、多くの人命が失われ、現在まで引き続き世界中の人々が大きな試練に直面していることにお心を痛められています。こうした中、両陛下には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、困難に直面している多くの人々の状況をよりよく理解し、お心をお寄せになりたいとのお気持ちで、様々な分野の専門家や、現場で対応に当たられている方々などからお話をお聞きになってこられました。この御製は、天皇陛下が、人々の願いと、人々がこの試練を乗り越えようとする努力が実を結び、感染症が収束していくことを願われるお気持ちをお詠みになったものです。



皇后陛下御歌

感染の収まりゆくをひた願ひ出で立つ園に梅の実あをし

天皇皇后両陛下には、新型コロナウイルス感染症の発生以来、感染拡大の収束を心から願ってこられました。そのような中、感染拡大に伴う緊急事態宣言下にあった昨年5月に、皇后陛下には、お住まいのある赤坂御用地内の御散策にお出になった折、御所のお庭の先にある梅林で、梅の木々に実った実がいつの間にか青々と大きくなっていることに目を留められました。感染症の感染拡大で人々の日常が様々な面で大きく変わった世の中にあっても、それまでの年と同じように花を咲かせ、実を育んでいる梅の木に、変わらぬ自然の営みの力をお感じになり、感慨深くお思いになりました。この御歌は、その時のお気持ちをお詠みになったものです。

(出典:宮内庁ホームページ「令和3年歌会始御製御歌及び詠進歌」https://www.kunaicho.go.jp/e-culture/pdf/utakai-r03.pdf)