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  • 原木栽培の乾しいたけ
  • 秋に伐採しても翌春には切り株から芽が出るクヌギの木
  • 2回の夏を経た後に成長に適した場所へ移動された、しいたけの菌糸が入ったほだ木
  • ドリルで穴を開けた原木に、しいたけ菌糸の入った種駒(種菌)を植え付ける様子
  • しいたけの菌糸がよく成長するように、日陰をつくってほだ木を山腹で伏せ込む様子
  • 農業と深く結びついている重要無形民俗文化財である「修正鬼会」

June 2021

国東半島宇佐地域の原木しいたけ

2回の夏を経た後に成長に適した場所へ移動された、しいたけの菌糸が入ったほだ木

大分県の国東(くにさき)半島宇佐地域では、クヌギを利用した原木しいたけ栽培が伝統的に行われてきた。日本一の蓄積量を誇るクヌギ林と複数のため池が連携したシステムは、日本一の原木しいたけ生産や、国内で唯一のシチトウイ(畳表の材料として使われるカヤツリグサ科の植物)生産等、多様な農林水産業を担うとともに、生態系を保全している。この「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」が世界的に評価され、2013年5月、世界農業遺産に認定された。

秋に伐採しても翌春には切り株から芽が出るクヌギの木

大分県の北東部の国東半島一帯に、4市1町1村からなる国東半島宇佐地域がある。半島のほぼ中央、標高721メートルの両子(ふたご)山を中心に、連なる峰々から放射状に延びた尾根と深い谷からなる山間部が大部を占め、平野部は狭小である。そのため、この地域では古くから森林資源を生活の糧としてきた。そして、その森林資源を生かしたしいたけ栽培が盛んである。

「大分県が日本最大の蓄積量(樹木の幹の体積)を誇るクヌギは、しいたけ栽培に使う種菌をつける“ほだ木”としてうってつけの木材です。表皮が厚いので、元気で強いしいたけのみが皮を破ってキノコが出てくる。そうして収穫するしいたけは肉厚で味が良く、香り高いのです」と語るのは、国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会の会長で、この地域で代々しいたけの生産に携わってきた林浩昭さんだ。

原木栽培の乾しいたけ

しいたけ栽培に欠かせないほだ木を得るため、人々は原木となるクヌギを大切に育ててきた。しいたけ菌を摂取したクヌギ原木は、3~4年の間、ほだ木として利用でき、使い終えたクヌギを山に返すと、ミネラル豊富な軟らかい土となり、保水層が形成される。そのことが森の新陳代謝を可能にし、人々は、協力し合い、手入れを欠かさずクヌギ林を続け守り続けてきた。

しいたけ栽培に必要なものは、適度な日陰、空気の流れ、湿気、そして水なのだが、この地域は日本で最も降水量が少ない地域の一つである。そのため、古くからこの地域には数多くのため池がつくられるようになり、現在、その数は1200余りに及ぶ。山間部のため大きなため池をつくることはできず、小規模の複数の池を巧みに連結させてしいたけ栽培を始め農業に必要な水量を確保してきた。そうしたため池のひとつ、美迫(みさこ)池がある地域では、今も「池守り」と呼ばれる管理人が選ばれ、宇佐地域の必要な場所に必要なタイミングで適量の水がいきわたるように目を配っている。

ドリルで穴を開けた原木に、しいたけ菌糸の入った種駒(種菌)を植え付ける様子
しいたけの菌糸がよく成長するように、日陰をつくってほだ木を山腹で伏せ込む様子

この地域の人々は、代々、水を通じて強く結ばれ、互いに協力し合う関係にあるのだ、と林さんは言う。また、この地域には天台宗寺院群が多数存在し、重要無形民俗文化財である「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」など、農業に関係する祭礼が今もなお多く残ることも特徴であるとも言う。

2013年5月に世界農業遺産に指定されて8年。その効果について林さんは「受け継いできた農林水産業が世界的に認められ、それを子どもたちが学び、体験することで地域を誇りに思ってもらうことができたと感じています」と語る。

農業と深く結びついている重要無形民俗文化財である「修正鬼会」

宇佐市には、日本のグリーンツーリズム発祥の地である安心院町(あじむまち)がある。今後、原木シイタケ生産の体験や、稲作などの農業体験や伝統工芸の体験などを充実させていきたいという。

国東半島宇佐地域を中心に、大分県の原木栽培による乾しいたけの生産額は日本一で、全国の43パーセントを占めている。ご飯を炊く際に、水で戻した乾しいたけを米と一緒に炊き込んで作るしいたけご飯はこの地域の郷土料理のひとつだ。ふっくらしたしいたけの歯ごたえと、そのかぐわしい香りを生む、豊かな森と人々がつくり守ってきた池の数々は、国東半島宇佐地域の魅力そのものである。

クヌギ林とため池群によって持続的に維持されている、日本一とも言われる原木しいたけ生産など、この地域の「農林水産循環システム」