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  • 春のアクロス福岡
  • 秋のアクロス福岡
  • 1995年の竣工当時のアクロス福岡。階段状の歩道が中央のガラスのアトリウムの左右に見える。
  • 2018年のアクロス福岡

July 2021

都会の中につくられた“森”

春のアクロス福岡

人口約162万(2021年6月現在)の日本でも有数の大都市、福岡県福岡市。その繁華街、天神地区には、およそ25年前、「山」へと徐々に変化していくことをコンセプトに施工された市民の憩いの施設がある。

秋のアクロス福岡

都会の真ん中にこつ然と小高い緑の“山”が現れる。市民が「アクロス山」と親しみを込めて呼ぶ「アクロス福岡」、九州一の繁華街、福岡県福岡市天神地区に建つ複合型商業施設ビルだ。様々な用途で用いられる複合施設だが、ここは“60年後に山になる”をコンセプトに施工され、建設当時から注目された。アクロス福岡の北側の外観はガラス張りのビルだが、天神中央公園に隣接する南側は、木の立ち並ぶ階段、“ステップガーデン”である。開館当初、そこに76種、3万7000 本の木々が植えられ、その姿は鬱蒼とした山林のようである。

アクロス山は高さ60メートル、頂上まで約400段、緑の道を辿って“山登り”を楽しむことができる。山頂に見立てた屋上展望台は、土日祝日に開放され、福岡市内、博多湾を一望することができる。

「展望台から福岡市内を気持ちよく見渡すことができるのですが、ビルの高さ制限が緩和され、周辺は“天神ビッグバン”と呼ばれるほど、今、建て替え工事が各所で盛んに進められています。数年後は、ここから見える景色も様変わりしていることでしょう」と管理会社の川野厚子さんは言う。

木々が成長すると鳥も良く訪れるようになる。1995年の竣工から20年以上が経ち、鳥や虫たちが花木の種を運んで、当初の倍以上の約200種にまで樹木、植物も増えた。春にはヒヨドリ、夏はオオルリ、秋にはジョウビタキ、冬にはシロハラなど一年を通じて様々な鳥の飛来が確認されている。

1995年の竣工当時のアクロス福岡。階段状の歩道が中央のガラスのアトリウムの左右に見える。

「ビルの耐用年数のおよそ60年が過ぎて建物が使えなくなった際には、木々を九州の自然の山に戻そうと計画しています。竣工当時はまだその想定がなかったので、九州にはなかった樹木もあったのですが、近年はできるだけ九州の在来種に植栽を戻そうと補植をしているところです。また四季折々の風景をみなさんに楽しんでいただこうと、紅葉する木々も少しずつ増やしています」と川野さんは説明する。

一般的に、ビルの緑化は土の重さが主要な問題になると言われている。アクロス福岡では普通の土の3分の1の重さの「アクアソイル」が採用された。軽量で保水力、排水力の高い天然の真珠岩の層から成る深さ50センチメートル程の土壌である。この土壌では、木々の根が毛細状に張るため木々が倒れず、また、一定のところで根の成長が止まるので建物を傷める危険を低くする。その上、この人工土壌を使う工法では、植えた木々の落ち葉が混ざって豊かな土となるので、60年間土の入れ替えや追加を行わずに済んでいる例もある。

2018年のアクロス福岡

さらに、樹木で吸収されなかった雨水は貯水槽に貯められて、スプリンクラーやトイレの水に利用される。また、緑陰ができたことで、ヒートアイランド現象の緩和の一助にもなっている。地元の九州大学が行ったアクロス福岡の調査によって、晴れた日の夜間には放射冷却によって冷やされた空気が冷気流となって隣接する公園に流れ、周辺の市街地に比べて気温が低くなったことが明らかになっている。

周辺の開発が進んでも、アクロス山からの眺望が変わっても、大都市の繁華街に聳えるビルの山は、森林として緑をたたえ、訪れる者に安らぎと憩いを提供し続ける―、その価値は変わらない。