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INDEX

  • 京都の苔庭に散る赤色やオレンジ色の紅葉
  • 松谷茂・京都府立大学客員教授
  • イチョウの落ち葉で、黄色い絨毯が敷き詰められたようになった京都の岩戸落葉神社
  • 京都の堀川通に立ち並ぶ、黄金色に染まったイチョウ
  • 兵庫県神戸市の有馬温泉にある瑞宝寺公園の彩り豊かな紅葉
  • 京都府立植物園「なからぎの森」近くの紅葉
  • 京都府立植物園「あじさい園」のフウの木の紅葉

September 2021

日本の紅葉

松谷茂・京都府立大学客員教授


日本人は、古くから春の桜と同様に秋の紅葉を愛でてきた。日本の紅葉の見どころなどについて京都府立植物園名誉園長で京都府立大学客員教授の松谷茂さんに話を伺った。

京都の苔庭に散る赤色やオレンジ色の紅葉

秋になると、日本は各地で紅葉を見ることができますが、何か特徴的な理由があるのでしょうか。

日本は、樹木が成長するのに十分な降雨量があります。また、国土の約3分の2が森林に覆われ、樹木の種類も豊富です。秋に葉の色が変わる落葉樹が全国的に分布していますので、ほとんどの地域で紅葉を見ることができるのです。 落葉樹の多くは、最低気温が6℃から7℃前後の日が続くと葉が色づき始めます。日本列島は南北に長いので、9月中旬頃から北の北海道の山々で紅葉が始まり、それ以降、紅葉する地域は東北地方、東京のある関東地方へと南下していきます。私が住む京都は、日本列島のやや西よりですので、通常、11月下旬頃から12月初旬までが紅葉の見頃となります。

昼間に十分な日照があること、昼夜の気温差が大きいこと、5℃前後の最低気温が続くこと、そして、樹木が適度な水分を得られていることなどの自然条件が揃うと、葉の中にある赤色や黄色などの色素の量の変化によって、色鮮やかな、美しい紅葉となると考えられています。

イチョウの落ち葉で、黄色い絨毯が敷き詰められたようになった京都の岩戸落葉神社

日本の紅葉の魅力を教えてください。

日本は落葉樹の種類が多いので、赤色、黄色、黄褐色、オレンジ色など様々な色の紅葉を見られることが大きな魅力です。紅葉する樹木として最も代表的なのは、葉が赤色になるイロハモミジ(イロハカエデ)です。イロハモミジは日本各地に自生しているほか、多くの公園、庭園、寺社にも植えられています。葉が黄色になる樹木ではイチョウが代表的です。日本では街路樹などにしばしば見かけられます。葉が黄褐色になる樹木としては、日本の森林に多く自生しているコナラ、ブナ、アベマキなどがあります。

日本の森林にはこうした落葉樹だけでなく常緑樹も茂っていますので、紅葉シーズンには緑色も加えた彩りを見ることができます。様々な色が混じり合った美しさが、日本の紅葉の魅力と言えます。

京都の堀川通に立ち並ぶ、黄金色に染まったイチョウ

京都に多くの紅葉の名所があるのはなぜでしょうか。

京都は、山に囲まれた盆地なので、昼夜の気温差が大きいです。11月上旬頃からは、最低気温が6〜7℃前後に下がる日も出始めます。また、市内には鴨川が流れているので、常に適度な湿気もあります。このように、先に述べた紅葉が美しくなる自然条件が揃っているのです。さらに、京都には古くから紅葉を愛でる文化があります。京都に都が置かれた平安時代(8世紀末〜12世紀末)には、貴族の間で紅葉の鑑賞が、桜と同様に季節を楽しむ重要な行事となっていました。貴族たちは紅葉した京都近くの山々を訪れ、紅葉の美しさを和歌*に詠(よ)みました。やがて、紅葉を間近で見て楽しめるように、貴族の邸宅にイロハモミジなど紅葉する樹木が植えられました。平安時代中期に紫式部によって書かれた「源氏物語」は京都を主に舞台にしていますが、紅葉に関する描写もしばしば登場します。

その後、京都では寺院の境内や庭園にも、紅葉する樹木が植えられるようになりました。何百年もの歴史を重ねた寺社の日本庭園の紅葉は趣きがあります。庭園の松や苔の緑色と、イロハモミジの赤色とのコントラストはとても見事です。

兵庫県神戸市の有馬温泉にある瑞宝寺公園の彩り豊かな紅葉

松谷さんの印象に残る紅葉スポットを教えていただけますか。

京都市北部の山中にある岩戸落葉神社(いわとおちばじんじゃ)は知る人の少ない小さな神社ですが、境内にある数本の大きなイチョウが鮮やかな黄色に変わると、非常に美しい光景を見せてくれます。紅葉が終わり、葉が地面に落ちると、まさしく、黄色の絨毯を敷いたようになります。

京都では寺社以外でも様々な紅葉を楽しめます。例えば、京都市中心部を南北に走る堀川通にはイチョウの街路樹が植えられています。黄色に染まった大きなイチョウが立ち並ぶ姿はとても迫力があります。

京都市の中心から車で北に約2時間、南丹市美山町(なんたんしみやまちょう)にある唐戸渓谷(からとけいこく)もおすすめです。美山町は町の90%以上が森林に覆われた自然豊かな町で、唐戸渓谷も深い森に包まれています。秋になると急峻な渓谷は、常緑樹の緑色に加え、落葉樹の赤色、黄色、オレンジ色など様々な色に染まります。

また、京都ではありませんが、京都に隣接する兵庫県の有名な温泉地、有馬温泉の瑞宝寺公園(ずいほうじこうえん)でも素晴らしい紅葉を見ることができます。ドウダンツツジの色鮮やかな赤は、特に見応えがあります。

京都府立植物園「なからぎの森」近くの紅葉

2006年から2010年まで松谷さんが園長を務めた京都府立植物園の紅葉について教えてください。

京都府立植物園は、広さは24 ヘクタールの敷地で国内外の約1 万2,000種類の植物を育てています。園内には約5万5,000本の樹木が生育していますが、そのうち約2000本が紅葉する樹木です。例えば、園内の「なからぎの森」では、イロハモミジなどの樹木が紅葉します。また、「あじさい園」に立つ樹齢100年を超えるフウ**の大木は、葉が緑色から黄色、オレンジ色、そして、赤色へと変わっていきます。

落葉樹は、紅葉する前に十分な水分が得られていないと美しく紅葉しません。そのため、職員による散水が非常に重要となります。水分が足りなくなると、葉の先が少し丸まります。そうした微妙な変化を見逃さないように、職員は毎日、1本1本、樹木の状態をチェックして、散水します。

京都府立植物園「あじさい園」のフウの木の紅葉

松谷さんおすすめの紅葉の楽しみ方を教えてください。

樹木の葉は、緑色から赤色や黄色へ一気に変化する訳ではありません。日当たりの良い、樹木の上部の葉から紅葉が始まり、徐々に樹木全体へと広がっていきます。そうした変化を観察することは非常に楽しいのではないかと思います。

紅葉した樹木を遠くから見るのも良いですが、間近で見ることもお薦めです。1枚1枚の葉の色の違いが分かります。1枚の葉でも、太陽の日が当たる部分だけ色が変わっていて、日陰の部分は緑色のままだったりします。また、樹木の真下に立って、葉の裏側から太陽を透かした逆光で紅葉を見ると、新たな美しさを発見できると思います。

* 日本の古典詩歌。原則31音で詠(よ)み、「五・七・五・七・七」の五つの句で構成。現在では、「短歌」とも言う。
** フウはフウ(旧マンサク)科の樹木で、葉は3裂である。日本では公園の樹木や街路樹として、しばしば植えられる。