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  • エントランスホールからの庭園の眺め
  • 井筒から水が吹き出す根津美術館の庭園にある「吹上の井筒」を、色鮮やかな紅葉が囲む。

September 2021

都心にあって紅葉美しい日本庭園を有する美術館

井筒から水が吹き出す根津美術館の庭園にある「吹上の井筒」を、色鮮やかな紅葉が囲む。

東京都心、表参道にある根津美術館は、国宝や重要文化財を含む、日本と東洋の古美術品を収蔵する美術館だ。そこは、広大な日本庭園を有し、秋には紅葉が美しい。

エントランスホールからの庭園の眺め

東京都港区の表参道、都心の一角に、17000平方メートルに及ぶ日本庭園をもつ根津美術館がある。園内に足を踏み入れると、さながら深山のような趣きがある。庭園中央、細長く伸びる池に向かってすり鉢状に窪む、起伏に富んだ地形を生かした庭に、本格的な茶会を行える4棟もの茶室が配されている。「根津美術館八景」と総称される滝、竹林、神社(飛梅祠)などが配された庭は、四季折々の風情を見せる。庭内を巡る者に、その変化に富んだ景色と静寂さから、都心にいることを忘れさせる。

東京都内の紅葉の名所としても知られ、秋には美術展鑑賞とともに紅葉の庭園の散策のために訪れる人も多い。

「秋は、美術館の建物に近いイチョウが黄色に色づき、徐々に庭園のモミジが赤く色づいていく変化が、例年11月後半から12月上旬頃まで楽しめます。おすすめの紅葉は、茶室「披錦斎(ひきんさい)」を取り巻くように配されたモミジです」と、根津美術館の広報担当は言う。

根津美術館は、「鉄道王」と呼ばれた実業家、初代根津嘉一郎(ねづ かいちろう・1860-1940)が蒐集(しゅうしゅう)した古美術品を展示するため、1941年、嘉一郎の旧宅に開館した。元々は武家屋敷で、庭は嘉一郎自ら手がけたものという。美術館の本館は、新国立競技場の設計などで知られる建築家・隈研吾(くま けんご)さんの設計によって、2009年にリニューアルされた。

そのエントランスホールに立つと、ガラスの壁の前に並ぶ3世紀から8世紀の石仏が、その向こうに広がる庭園に溶け込んでいるように見える。美術と庭園とが融合する同館を象徴する景色だ。

多岐にわたるジャンルの日本と東洋の古美術品7400点以上を収蔵する根津美術館は、毎回テーマの異なる年7回の展覧会を開催している。今年11月から12月には、昨年国の重要文化財に指定された、館蔵の鈴木其一(すずき きいつ・1796-1859)作「夏秋渓流図屏風」の特別展示が予定されている。これはヒノキ林と岩間を流れる渓流を、ヤマユリの花が咲く夏と桜の葉が紅葉する秋の情景を一対の屏風絵として描いた作品である。緑と群青と金色という強烈な配色と大胆な構図の中に、白いヤマユリの花、紅葉した桜の葉が繊細な筆致で写実的に描かれている。

根津美術館では、日常の喧騒から離れ、美術品と庭園を通じて日本の秋を感じることができる。そんな楽しみが都心にもある。

根津美術館所蔵の鈴木其一「夏秋渓流図屏風」(19世紀に制作された国指定重要文化財)