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  • 秋の足立美術館の枯山水庭
  • 館内から眺めた秋の枯山水庭の「生の額絵」
  • 川端龍子「愛染」

September 2021

秋の庭とともに鑑賞する紅葉の名画

秋の足立美術館の枯山水庭

美しい日本庭園を有することでも有名な島根県安来市(やすぎし)の足立美術館は、紅葉を描いた日本画の名作を所蔵している。

館内から眺めた秋の枯山水庭の「生の額絵」

島根県安来市にある足立美術館は、その美しい日本庭園で内外に有名だ。自然の山々を景色として取り込んだ主庭「枯山水庭」を始めとする多様な趣きの庭園は、秋には紅葉し、赤く彩られる。

同美術館は数多くの日本画を所蔵しているが、毎年この季節に特別に公開される、同館所蔵の有名な日本画*がある。それは、近代日本画の巨匠・横山大観(よこやま たいかん・1868-1958。以下「大観」)が1931年に描いた、「紅葉(こうよう)」という屏風絵だ。屏風絵は、部屋の仕切りや装飾に用いる調度品、屏風に描かれた絵画作品である。「紅葉」は、高さ約1.6メートル、幅約3.6メートルの、折れ曲がる六つの面からなる屏風がペアになっている。それぞれの屏風に、青々とした水の流れる川を背景に、紅葉した枝を大きく広げるカエデが華やかに描かれている。

「横山大観が60歳を過ぎてから描いたとは思えない若々しい作品です。発色の良い顔料を用い、紅葉を複数の色で表現したことで、立体感が出ています。川面の輝きの表現にはプラチナ箔を使うなど、当時新しく出回った材料にも挑戦した、大観の代表作です」と、学芸員の木佐布由実(きさ ふゆみ)さんは言う。

大観は、屏風を開いた時に最も美しく見えるようにと、カエデの葉を実物より少し左右に引き伸ばすデフォルメした構図で描いたという。紅葉の薄い葉や濃い葉が混じって描かれているが、その調和が見事である。

川端龍子「愛染」

日本絵画を中心に、約2000点のコレクションを有する足立美術館には、大観と並ぶ近代日本画の巨匠、川端龍子(かわばた りゅうし・1885-1966)の代表作の一つで、1934年に描いた屏風絵「愛染(あいぜん)」も所蔵されている。「愛染」には、紅葉が散った水面を、つがいのオシドリが円を描くようにかき分けて泳ぐ姿が描かれている。愛染とは男女の愛を意味し、赤い紅葉で染められた水面は愛の高まりを表すと言われる。オシドリの表情や、水に浮いた紅葉の上にできた道すじが写実的に描かれていながらも、大観の作品とは違って、皆同じ濃い色調で描かれた紅葉の葉が画面の大宗を占めた装飾的な構図となっている。紅葉しきった葉の鮮やかさが際立ち、見る者にその余韻が残るような作品である。

足立美術館の創設者、足立全康(1899-1990)は、「庭園もまた一幅の絵画である」という信念を持っていた。秋に美術館を訪れる機会があれば、紅葉の庭とともに、これら紅葉の名画を鑑賞することをおすすめしたい。

* 日本画は、広義には日本の伝統的な技法や材料を用いて描かれた絵画のこと。狭義には19世紀末以降、西洋画(洋画)を意識して、日本の伝統絵画の技法で描かれるようになった近現代の日本の絵画。

横山大観「紅葉」