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February 2022

流氷に一番近い駅:JR北海道釧網本線「北浜駅」

  • 北浜駅から見える流氷
  • 北浜駅と展望台(左)
  • 知床連山と釧網本線の列車
  • 駅の待合室の壁や天井に貼られた名刺や切符
  • 北浜駅近くの流氷沿いに歩くキツネ
北浜駅から見える流氷

北海道北東部、オホーツク海に臨む北浜駅(きたはまえき)は、流氷と出会える駅である。

北浜駅と展望台(左)

北海道の北東に広がるオホーツク海に面した網走市(あばしりし)の「北浜駅」は“流氷に一番近い駅”として知られ、冬の北海道の人気スポットの一つだ。

北緯45度を通るオホーツク海は、結氷*する海としては世界で最も低緯度にあり、例年、2月下旬から3月上旬に流氷のピークを迎える。その時期、周辺の海一帯が流氷で埋め尽くされる。

JR北海道釧網(せんもう)本線北浜駅は、そのオホーツク海の波打ち際からほんの20メートルほどの位置に建つ木造の駅舎で、列車から降りてプラットホームに立った瞬間から海を一望でき、時期によっては流氷が眺められる。待合室の窓からも海を臨める。また、駅から歩いて浜辺に行けば、直接流氷に触れたり、“流氷鳴り”と呼ばれる流氷がぶつかり、きしむ音を聞くこともできる。高い場所から海が眺められる展望台もすぐ隣にある。

知床連山と釧網本線の列車

「流氷がやって来ると、海は水平線まで真っ白になり、その向こうには世界自然遺産の知床連山が浮かび上がります。北浜駅からの眺めは、まさに、世界でもここでしか見られない絶景と言ってもいいでしょう」

こう語るのは、60年以上の歴史を持つ全国規模の鉄道愛好家団体『鉄道友の会』の北海道支部長を務める早川淳一さんだ。

JR釧網本線は全線166.2キロメートル。網走市から約40キロメートルはオホーツク海沿岸を走り、そこから南下して、阿寒摩周国立公園やラムサール条約登録湿地である釧路湿原国立公園を通り、太平洋沿岸の釧路市にまで至る。北浜駅は、1924年に開業したが、道路交通網の整備や人口減少などによって利用客が減少し始め、1984年には、ついに駅員のいない無人駅となった。

ところが、早川さんによると、その前後から、北浜駅の人気が徐々に高まっていったのだという。無人化の前には、その当時の駅長が駅の待合室に“落書き帳”を置いて訪れた旅客に旅の思い出を自由に書き残してもらったり、駅構内のみに入れる入場券の購入者には、浜辺の貝を通行証として渡すなど、独自のサービスを行い、それが徐々に評判になっていったのだ。また、1960年代以降、幾度となく映画やTVドラマのロケ地となったことも人気の高まりの背景にあった。特に、2008年に中国で大ヒットした映画『非誠勿擾(フェイチェンウーラオ)』**のロケ地となったことで、中国から多くの観光客が訪れるようになったのだ。

北浜駅の待合室の壁や天井には、そうした観光客を含め、訪れた人々の名刺や購入した切符がところ狭しと貼り付けられている。その光景は、北浜駅を目指した旅人たちの想いにあふれている。さらに、無人となった駅舎の駅事務室を改装して、1986年にオープンした軽食&喫茶“停車場”は、古い列車の座席などを利用したレトロな雰囲気で、地場の海産物をふんだんに使った料理も味わえる。旅客だけでなく、地元の人々にも人気という。

駅の待合室の壁や天井に貼られた名刺や切符

「釧網本線はオホーツク海を眺められる鉄道路線で、オホーツクブルーと呼ばれる真っ青な海と空が車窓いっぱいに広がります。冬の流氷の時期は、ここでしか見ることができない眺めを楽しめますが、そのほかの時期でも、初夏には草花の咲き乱れる草原や、白鳥も飛来する美しい湖など、一年を通じて素晴らしい風景を車窓から楽しめますので、北浜駅を訪ねるときはクルマではなく、ぜひ鉄道で訪ねてほしいですね」と早川さんは言う。

北浜駅近くの流氷沿いに歩くキツネ

2月から3月、北海道の寒さは厳しい。しかし、その寒さゆえに臨める北浜駅からの流氷の海の景色は人々を魅了してやまない。

* 海や湖などの水面に氷がはること
** 邦題「狙った恋の落とし方」。2010年に続編が制作された。