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February 2022

猫が駅長の駅:和歌山電鐵「貴志駅」

  • 猫を模(かたど)った屋根が特徴的な「たまミュージアム貴志駅」(Designed by EIJI MITOOKA + DON DESIGN ASSOCIATES)
  • 初代駅長ねこの故たま
  • 貴志駅のホームにある「たま神社」
  • 現在、貴志駅の駅長を務めるニタマ
猫を模(かたど)った屋根が特徴的な「たまミュージアム貴志駅」(Designed by EIJI MITOOKA + DON DESIGN ASSOCIATES)

和歌山電鐵貴志川線貴志駅(きしえき)は、猫が駅長の駅として人気が高い。

初代駅長ねこの故たま

古くから猫はネズミを捕獲する有益な動物として日本を含め多くの国で飼われてきた。イギリスでは1924年以来、猫が首相官邸にネズミ捕獲長として正式に雇用されていることが知られている。

日本では近年、ネズミ捕りとしての猫の役目は少なくなり、他の多くの国と同様、もっぱらペットとして飼われるようになっている。そうした中、近畿地方の和歌山県和歌山市と紀の川市間の約14キロメートルを結ぶ貴志川線の貴志駅では、2007年から猫が駅長に就任している。

貴志川線は1916年に開業した歴史ある鉄道路線ではあったが、徐々に利用者が減少、2004年に当時の事業者が廃線を決定した。しかし、路線存続を熱望する地元住民らの活動により、事業を引き継ぐ企業を地元自治体が公募することになり、岡山県の両備グループの岡山電気軌道が和歌山電鐵株式会社を新たに設立し、2006年から貴志川線の運営を担うこととなった。

新しい会社による運営体制を準備している際、問題として浮上したのが、貴志駅に隣接する商店で飼われていた猫たちの事だった。商店横の公道に置かれていた猫小屋が駅周辺の土地整理によって、立ち退かなければならなくなったのだ。商店の主は、猫を何とかそのまま駅に置いてもらえないか、和歌山電鐵の社長に就任した小嶋光信さんに直接、相談を持ち掛けた。

「社長が直接その猫たちに会ってみると、経営者の直観でしょうか、3色の毛色を持つ雌の三毛猫(みけねこ)の『たま』は、自分の会社のどの社員にも負けないほど目に力があると感じたそうです。そこで、たまは駅長、他の2匹にはその助役として、貴志駅内に残ってもらおうということになりました」と両備グループ広報部の山木慶子(やまき よしこ)さんは語る。

“猫が駅長に就任する”という前代未聞の出来事は瞬(またた)く間に全国に伝わり、小さな制帽をかぶった凛々(りり)しくも愛らしいたま駅長の姿を一目見たいと、大勢の乗客が貴志駅を訪れるようになった。また、この話題は海外メディアでも取り上げられ、たま駅長は国外からのファンも集めることとなった。

たま駅長や助役たちは、原則、月曜から土曜日の昼間の勤務であった。冬期は10時から16時30分までで、夏期は9時から17時までである。たまはお気に入りの改札台の上に座って、乗客の出迎え、見送りを行った。就任から1年も過ぎると、その評判を聞きつけ、更に多くの人々がたま駅長に会いに貴志駅を訪れるようになった。そこで、2010年には、駅が改築され、猫を模(かたど)った屋根が特徴的な新たな駅舎が完成、たまのための駅長室も設けられた。

たまの集客効果は会社の予想を大きく超えて、たまはどんどん出世していった。2008年には地元の観光振興への貢献が認められ、和歌山県知事から第1号「和歌山県勲功爵(わかやまでナイト)」の称号を拝受して「たま卿」となり、2011年には同じく知事から「和歌山県観光招き大明神」の称号が贈られた。たまは2013年には和歌山電鐵社長代理となり、2014年にはウルトラ駅長となった。しかし、たまは2015年に多くのファンに惜しまれつつ亡くなった。亡くなった後には名誉永久駅長の称号が贈られた。

貴志駅のホームにある「たま神社」

たまの後を継いで駅長になったのは、三毛猫の「たまⅡ世駅長」、愛称、「ニタマ」だ(ニは2番目を意味する)。ニタマは、「猫駅長訓練所」出身だ。同訓練所は、岡山電気軌道の施設で、猫は自由気ままに過ごし、観光客らの相手をして過ごしている。特に決まった訓練があるわけではなく、「いろいろなタイプの人たちと接することができること」、「帽子をかぶるのを嫌がらないこと」といった駅長候補になるかどうかの適性が見きわめられるという。そして、適性となれば駅への配属が決まっていく。

現在、貴志駅の駅長を務めるニタマ

ニタマは初代のたま駅長が休暇を取る日曜日に駅長代行として貴志駅で職務をこなしていたが、たま亡きあと、駅長に抜擢(ばってき)されたのだった。ニタマは、見事に駅長職をこなし、たまに劣らない人気を博している。今年(2022年)の年始、社長代理への昇進辞令が交付された。2018年からは、伊太祈曽駅(いだきそえき)においても、ニタマと同様に、訓練所で駅長の適性を見出された三毛猫「よんたま」が駅長を務めている。

初代のたま駅長は、終(つい)の住み家だった貴志駅のホームに「たま神社」としてその御霊が祀られ、後輩猫たちの仕事ぶりを見守り続けている。