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March 2022

魅力あるフィギュアをつくる

  • 海洋堂が手がけた「日本の動物シリーズ」のフィギュア
  • 北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」のフィギュア
  • 株式会社海洋堂専務取締役の宮脇修一さん
  • 羽根を広げたギラファノコギリクワガタのフィギュア
  • 飛行中のイヌワシのフィギュア
  • アメリカ自然史博物館から依頼されて作ったという「アロサウルスvsバロサウルス」
  • 国宝「阿修羅像」のフィギュア
海洋堂が手がけた「日本の動物シリーズ」のフィギュア

プラスチックの小さな人形、フィギュアに魅せられているのは子どもばかりではない。アニメのキャラクターから、動物、仏像などの精巧なフィギュアを机や本棚に置いて楽しむ大人は少なくない。世代を超えてファンを持つフィギュアと、そんな世界を開拓した会社を紹介する。

株式会社海洋堂専務取締役の宮脇修一さん

1980年代、リアルで美しく躍動感あふれる独自の造形表現で生み出されたフィギュアが登場し、世界を驚かせた。これを手がけたのは大阪府門真市(かどまし)の株式会社海洋堂である。その後現在まで、同社は「日本の動物シリーズ」を始め、怪獣、恐竜、アニメやゲームのキャラクター、さらには仏像に至るまで、精巧なフィギュアを世に送り出している。ファンやコレクターは国内にとどまらず、米国や中国などにも広がっている。そのうえ、世界的に有名な恐竜映画の製作資料に採用されたり、自然史分野で世界最大規模を誇るアメリカ自然史博物館から展示品の製作依頼が来るなど、同社の造形作品に対する評価は高い。

北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」のフィギュア

海洋堂の創業は1964年、宮脇修氏が小さな貸本屋を改修して模型販売店を開いたのが始まりで、1980年には「ガレージキット」と呼ばれる、怪獣やアニメーションのキャラクターのオリジナルの立体模型作りに取り組み始めた。

プラモデルが大好きだった宮脇修一専務(修氏の息子)は、中学2年生で店長になり、20歳を過ぎると1977年頃からは経営も任されるようになる。「海洋堂は、本当にいいもの、素晴らしいものを作りだし、多くの人に手に取ってもらい、喜んでいただくために、あくまで‘造形師’、クリエーターの集団を目指すことにこだわりました」と宮脇専務は力をこめる。その姿勢に共感して、次第に、彼の周りには驚くような技術と専門知識で精緻な立体模型を作る常連客が集まるようになっていた。彼らの作品を型に取り、大量販売することで、海洋堂はフィギュアメーカーとして歩み始めたのだった。

羽根を広げたギラファノコギリクワガタのフィギュア

宮脇専務はフィギュアを作るスタッフを「造形師」と呼び作家性を重視している。作品を生み出す工程を「製作」ではなく「制作」と言い、他とは異なるフィギュアづくりにこだわりと誇りを持って取組んできた。そうして生み出される作品には、必ず造形師の名前が刻印される。精緻であるばかりでなく、造形師一人ひとりの個性があることを高らかに謳っているのである。それらは、単なる玩具でも、人形でもない、「フィギュア作品」として世界のファンを魅了している。

飛行中のイヌワシのフィギュア

海洋堂が1999年に手がけた「日本の動物シリーズ」は、卵型のチョコレート菓子の中から現れる、ほんの3から4センチメートルほどの昆虫、水辺や森の小動物、海洋生物などのフィギュアが爆発的な人気となり、販売数は3年間で1億5000万個に達した。買い求めたのは子どもたちというより、フィギュアに魅せられた大人たちだった。このシリーズは、さらに透明な手のひらにのるほどのカプセルの中にフィギュアを入れてあるカプセルトイのブームも呼び起こしていった。

アメリカ自然史博物館から依頼されて作ったという「アロサウルスvsバロサウルス」

フィギュアは、日本のアニメのキャラクターや、動物ものが主流である感があるものの、この頃は、仏像や北斎の浮世絵といった日本の美術工芸もの、アメリカのコミック「ピーナッツ」に登場するスヌーピーら、更には、スウェーデンを代表する人気陶芸作家 リサ・ラーソンの作品のミニチュアものも人気があり、コレクターの方も多様化しているという。

国宝「阿修羅像」のフィギュア

人形を愛(め)でるように、本当にいいフィギュアを愛で、それぞれの想いを膨らませて欲しいという、そんな願いが造形師集団のフィギュアに込められている。