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April 2022

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どこでも、誰にでもできる農業を可能にするフィルム農法

  • アイメック(メビオールのフィルム農法)によるトマト栽培
  • 2019年5月、イタリアで開催された「アグリビジネスにおける革新的なアイデアとテクノロジー」(UNIDO ITPO イタリア主催)の授賞式で賞を受け取るメビオールの吉岡浩社長(右)
  • フィルムの表面に根を張っている植物を見せる森有一さん(メビオール株式会社会長)
  • アイメックを利用した果物や野菜栽培
アイメック(メビオールのフィルム農法)によるトマト栽培

農作物の栽培が困難な環境でも、誰もが高品質の農作物を生産できる画期的な農法が開発された。

フィルムの表面に根を張っている植物を見せる森有一さん(メビオール株式会社会長)

現在、世界が直面する気候変動が、干ばつ、豪雨などの異常気象を引き起こし、農産物の安定した生産が脅かされている。

この問題の解決のために極めて有効な、過酷な環境下でも土を使わず、少量の水で高品質の農作物を栽培できる農法が開発された。土の代わりに特殊なフィルムを用いるフィルム農法と呼ばれる技術であり「アイメック(IMEC:Intelligent membrane culture)」と命名された。神奈川県平塚市に本社を置くベンチャー企業、メビオール株式会社の創業者で、現在、会長を務める森有一さんが開発した技術だ。

「私は、人工血管や透析膜など、先端高分子技術を使った医療機器の研究を行っていました。その技術を植物栽培に応用することで、世界的な食糧不足問題の解決に貢献できるのではと考え、1995年にメビオールを創業しました」と森さんは話す。

このフィルム農法「アイメック」は、土の代わりに「ハイドロメンブラン」という、ナノメートル(10億分の1メートル=100万分の1ミリメートル)サイズの穴が無数に空いている特殊なフィルムを用いる。フィルムには養液点滴チューブを通じて水分と養分だけが供給され、植物はこのフィルムの表面に根を張って育つ。もし、養液がウイルスや細菌で汚染されても、ナノメートルサイズの穴を通過することはできず、植物が病気にかかることはほとんどないため、農薬の使用量も大幅に減らすことができる。

アイメックを利用した果物や野菜栽培

また、フィルムの下に敷く止水シートによって、養液が地面に漏れ出すことはなく、生育に必要な水の使用量も従来の数分の一で済むため、水の乏しい土地でも農作物を栽培することができる。また、土壌汚染、過剰塩分摂取や害虫の影響を受けることもない。

さらに、この農法は、農作物の品質の向上にもつながるという。例えば、トマトでは、通常の農法よりも、糖度や栄養価が高くなるような育て方が容易になる。これは、トマトのような実を作る植物は生育過程で水分不足が生じると、かえって実の糖度や栄養価が高まる性質「水ストレス」によるものであることが知られている。アイメックによって、その性質を引き出す水分調整が可能になるのである。

「『ハイドロメンブラン』の表面は一見カラカラに乾いているように見えますが、実際はフィルムの内側に微量の水分と養分が保たれています。植物はその微量な水分と養分を、フィルムの表面に根を張り、微細な根毛を伸ばして、より広い面積で取り込もうとします。この過程で、植物に『水分ストレス』がかかり、糖度や栄養価が高くなるのです」と森さんは説明する。

これまでも「水分ストレス」を利用する農法はあったが、水の量やタイミングが難しかった。しかし、この農法を使えば、手間のかかる水分管理は必要なく、農業未経験者でも短期間で栽培技術を習得し、高品質な作物を生産が可能になるという。

メビオールのフィルム農法は、国連が提唱するSDGsにも貢献することが評価され、2017年に中小機構主催のJAPAN VENTURE AWARDSにおいて「中小企業庁長官賞」、2019年にはUNIDO ITPO Italy(国際連合工業開発機関イタリア投資・技術移転促進事務所)による The International Award “Innovative Ideas and Technologies in Agribusiness”など数多くの賞を受賞している。

2019年5月、イタリアで開催された「アグリビジネスにおける革新的なアイデアとテクノロジー」(UNIDO ITPO イタリア主催)の授賞式で賞を受け取るメビオールの吉岡浩社長(右)

アイメックは、これまで120か国以上で特許を取得しているが、同社は、その普及を世界各国で進めている。アラブ首長国連邦(UAE)では、2014年から、アイメックが導入された5000平方メートルの温室でトマトの生産が行われ、現地の高級レストランにも出荷された。2015年には、中国の上海近郊でも、アイメックによるトマトの栽培が始まっている。また、2020年に、国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業案件化調査」として、ケニア共和国でアイメックを導入するための調査が採択された。同社は、不安定な降雨などの気象現象に苦しむケニアで、高品質・高栄養価の農作物の安定的な生産を目指している。

「アイメックの技術を使えば、気候や土壌の条件などにより、農業が困難だった地域でも、農業が可能になり、農業生産地をどんどん広げていけます」と森さんは話す。

世界の干ばつ地域や、アフリカなどで農業を定着させ、経済の活性化と貧困からの脱却支援、さらには、アイメックで育てた遺伝子組換え植物から医薬品をつくる研究なども進んでいるという。森さんは、アイメックによる世界の農業生産地の拡大とその経済効果の最大化を目指し、奮闘中だ。

アイメックで使用するフィルムの構造
アイメックでは、害虫、病原菌、土壌汚染の影響を受けずに植物栽培が可能となる。