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May 2022

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浄法寺漆と浄法寺塗

  • 職人はウルシの木から滲み出るわずかな樹液を採取する。
  • 岩手県二戸市浄法寺町の上杉沢遺跡から出土した、漆で色付けされた石刀
  • 岩手県二戸市浄法寺町で「漆掻き(うるしかき)」の作業をする職人
  • 木製の樽に入れられた浄法寺漆
  • 浄法寺塗の盃(さかずき)や片口などの酒器
  • 料理を盛り付けた浄法寺塗の椀と箸
職人はウルシの木から滲み出るわずかな樹液を採取する。

伝統的な技術によって生み出される東北地方の「浄法寺漆(じょうぼうじうるし)」は、それが作り出す鮮やかな色合いと、優れた耐久性が高く評価されている。

岩手県二戸市浄法寺町で「漆掻き(うるしかき)」の作業をする職人

農林水産省によれば、2020年の日本の漆の生産量は約2トンである。このうちの約1.5トンを占めるのが「浄法寺漆」だ。浄法寺漆は東北地方の岩手県北部の二戸市(にのへし)浄法寺町とその周辺地域で主に生産されている。ウルシの木が豊富なこの地域で人々は古くから、ウルシの木の樹液である漆を利用してきた。同町の上杉沢(かみすぎさわ)遺跡からは、2300年前に作られたと推定される、漆で色付けされた石器も出土している。

日本では1950年代以降、プラスチック製品の普及や外国産の漆の輸入増加とともに、国産漆の生産量は大きく減少した。そうした中、二戸市では市民、民間企業、行政が協力し、ウルシの木の植林、漆に関わる職人の育成など様々な取組を通じて、漆の伝統を守り続けた。

岩手県二戸市浄法寺町の上杉沢遺跡から出土した、漆で色付けされた石刀

浄法寺漆は生産量の多さだけでなく、塗ったあとの強度が非常に高く耐久性に優れていることや、赤や黒の鮮やかな色合いを漆器に生み出せることなど、品質の高さも誇っている。そのため、世界遺産の岩手県の中尊寺金色堂、栃木県の日光東照宮、京都府の金閣寺などの修復、塗り直しにも採用されている。

高い品質の漆を採取するために不可欠な技術が「漆掻き(うるしかき)」である。漆掻きは、専門の道具でウルシの木の表面を傷つけ、わずかににじみ出る漆を集める技術である。漆掻き職人は、6月から11月に山に入り、200本ほどの木から漆を少しずつ集める。採取したばかりの漆は乳白色だが、徐々に茶色みがかってくるという。1本の木に傷をつけるのは数日置き。日を置かずに木に傷をつけると、木にストレスがかかり、漆の量が減るという。半年間でウルシの木一本から採取できる漆は200ミリリットルほどである。熟練の技(わざ)を必要とする漆掻きは2020年に、ユネスコの無形文化遺産「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」の技術の一つとして登録されている。

木製の樽に入れられた浄法寺漆

「熟練した漆掻き職人の話では、木につける傷の長さや深さ、日にちの間隔などの判断を誤ると、思うように漆を採取できないとのことです」と二戸市漆産業課の担当者は話す。

漆掻き職人によって集められた漆は、攪拌(かくはん)や脱水といった精製、そして、漆を赤色や黒色に変える材料との混ぜ合わせといった作業を経て、塗料として完成する。こうしてでき上がった浄法寺漆を使って作られる製品が「浄法寺塗」(じょうぼうじぬり)である。浄法寺塗は平安時代(8世紀末〜12世紀末)、同町で今も人々の信仰を集める天台寺(てんだいじ)の僧侶が食事のために自作した椀や皿に、漆を塗ったのがその始まりとされる。その後、素朴な美しさと丈夫さを兼ね備えていることから、日常使いの漆器として全国に広まった。

浄法寺塗の盃(さかずき)や片口などの酒器

浄法寺塗は、塗師(「ぬりし)又は「ぬし」)が木製の材料に漆を刷毛(はけ)で塗り、乾燥した後、紙やすりで研磨を行うという作業を最低6回繰り返し完成させる。

「浄法寺塗は滑らかな手触り、鮮やかで深みのある色合いを持つ美しい見た目、耐久性の高さが大きな特徴です。また、日々使っていると、自然と艶(つや)が生まれてきます。そうした変化も楽しめる漆器です」と二戸市の担当者は話す。

料理を盛り付けた浄法寺塗の椀と箸

浄法寺塗は日本料理だけでなく、フランス料理を盛り付ける皿やワインを飲むカップなどの食器として使っても、その良さを堪能することができ、その用途は広がりをみせている。浄法寺漆が生み出す美しさは、色褪せることなく未来へと受け継がれていく。