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June 2022

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四季のうつろいを表現する日本料理

  • 夏の八寸の例
  • 「京都吉兆」総料理長の徳岡邦夫さん
  • 室内からの夏の庭の眺め
  • 京都吉兆の入口
  • 笹の葉で川を表現した、鮎の塩焼き
  • 夏の料理「氷室膳」の例
  • 夏の果物の例
  • 夏をイメージさせる模様の小鉢に盛られた、はもの湯引き
  • 桜の模様の螺鈿(らでん)が施された御椀
夏の八寸の例

四季に恵まれた日本では、料理において季節感を大切にする。特に、京都には、そうした季節の日本料理を楽しめ、季節の変化を敏感に感じ取ることができる老舗日本料理店が多くある。季節ごとの風情を一皿一皿の料理に表現する京都の名料亭を紹介する。

「京都吉兆」総料理長の徳岡邦夫さん

京都の景勝地として知られる嵐山では、春の桜、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪景色といった山々の絶景と、桂川*に架かる渡月橋(とげつきょう)とが相まった景色を堪能できる。この景勝地にある個人の別荘を、日本料理界の巨匠・湯木貞一(ゆき ていいち。1901〜1997)が譲り受け、料亭として出店したのが1948年。これが、今日の名料亭「京都吉兆」の始まりである。

室内からの夏の庭の眺め

湯木貞一は、季節感を大切にする日本の伝統的な茶道の精神を日本料理に融合させることを目指し、器やしつらい(空間や部屋の演出)も含めて、日本料理のあり方を生涯にわたって追求した人物として知られる。日本料理を長い歴史と伝統を踏まえて集大成し、芸術の域にまで高めた功績で、日本政府から紫綬褒章を受章し、文化功労者として顕彰された。

京都吉兆の入口

湯木貞一の孫で、現在、「京都吉兆」総料理長を務める徳岡邦夫(とくおか くにお)さんは言う。「四季折々の自然の様々な現象を人間の感情にたとえて詠む和歌**の歌人に似て、日本料理の料理人は、四季のうつろいを一皿一皿の料理で表現します。例えば、初夏からお出しする川魚の鮎であれば、鮎の泳ぐ夏の川の風情を出すために、川の流れを表す笹の葉を敷いた竹籠に鮎が泳いでいるような姿で盛り付けます。お客様には、鮎の泳ぐ川の流れを感じていただきながら鮎独特の風味を楽しんでいただきます」

笹の葉で川を表現した、鮎の塩焼き

京都吉兆では、茶道を起源とする伝統的な「茶懐石」に基本をおいた、より華やかで品数の多いコース料理を提供している。おおよそ10品ほどで、向附(むこうづけ)、御椀(おわん)、造里(つくり)二種、箸休(はしやすめ)、八寸(はっすん)、焼物、焚合(たきあわせ)、御飯、果物、菓子といった内容となる。***客が最初に味わう「向附」から季節感の演出が始まる。夏の季節だと代表的な料理に、氷を使用し見た目にも涼しさを感じる「氷室膳」がある。また、コース半ばの、「八寸(はっすん)」では、例えば鮮やかな夏の花を活けたり、料理の間の距離をあけ、風があたかも通っているような演出をする。このように、徳岡さんは、料理の素材自体の美しさや季節感を活かしながら、一皿一皿に四季折々の美しさを表現する。

夏の料理「氷室膳」の例

そして、それぞれの料理のために徳岡さんが選ぶ器は、その料理体験に季節感を加味する。湯木貞一は、茶道具や器の収集家としても知られ****、そのコレクションの中には、日本政府から重要文化財に指定されたものもある。徳岡さんは、訪れる客に思いをよせつつ、そうしたコレクションから、季節や会食の目的に応じ、器を厳選して料理を盛り付ける。更に、季節や年中行事にちなんだ掛軸や飾り物をより抜くなど、会食の場の空間演出にも余念がない。創業者・湯木から受け継ぐ「日本料理は単に食材や調理にとどまらない、茶道のように、総合的な演出が必要」という精神の発露であり、日本料理を芸術の域にまで高めようとする実践と言えよう。

夏の果物の例

このような日本料理の醍醐味を京都吉兆は余すことなく提供し、その評価は、ミシュランガイドの格付け(2021年度三つ星)などの国際的な評価にも表れている。

夏をイメージさせる模様の小鉢に盛られた、はもの湯引き

注:京都吉兆が提供する料理や、それを盛り付ける器は、季節やお客様ごとに異なる。

桜の模様の螺鈿(らでん)が施された御椀

* 渡月橋は、嵯峨野から嵐山にかけて流れる桂川に架かる橋で、全長155メートル。なお、桂川はこの橋を境に上流を大堰川(おおいがわ)と呼ぶ。
** 「Highlighting Japan」2020年10月号参照(和歌に詠まれた秋の色) https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202010/202010_02_jp.html
*** 京都吉兆では、向附(むこうづけ)、御椀(おわん)、造里(つくり)といった順に料理が提供される。伝統的な八寸は、約24センチメートル(伝統的な日本で使用する長さの単位換算で8寸)四方の器に、様々な少量の料理を盛り付けたもの。焚合とは、2種類以上の煮物を同じ器に盛り合わせた料理のこと。
**** 大阪市の湯木美術館には、湯木貞一が収集した茶道具や器が収蔵・展示されている。 http://www.yuki-museum.or.jp