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June 2022

パリで味わえる極上の寿司

  • 寿司の握り(中トロ)
  • キャビアの軍艦巻き
  • 料理を作る岡崎さん
  • 手巻き寿司(大トロ)
  • ちらし寿司
  • 12席あるラビスのカウンター。岡崎さんが寿司を握るのを間近で見ることができる。
寿司の握り(中トロ)

日本人とフランス人がコラボレーションするパリの寿司店が高い評価を得ている。

料理を作る岡崎さん

近年、海外における日本食のレストランが増えている。農林水産省の推計*によれば、その数は2006年に約2.4万店であったのが、2015年には約8.9万店、2021年には約15.9万店となっている。そうした海外の日本食のレストランの中には、国際的に高く評価されている店もある。レストランのガイドブックとして世界的に知られる「ミシュランガイド」で、2022年に二つ星を獲得しているパリの「ラビス」も、その一つである。ラビスは2018年、シャンゼリゼ庭園に1842年に建てられた歴史的建造物「パヴィヨン・ルドワイヤン」内にオープンした寿司店である。

オーナーは、フランスで最も著名なシェフの一人、ヤニック・アレノ氏である。アレノ氏はパヴィヨン・ルドワイヤン内で、ラビスの他にも2022年にミシュランガイドで三ツ星及び一つ星を獲得している二つのレストランを所有している。

キャビアの軍艦巻き

アレノ氏が伝統的な日本料理と初めて出会ったのは、約30年前、20歳で日本を訪れた時であった。約3週間の滞在で、魚介類などの食材、寿司などの料理に魅了され、それ以来、頻繁に日本を訪れ、数多くの名店で料理を味わい、料理人と交流しながら、日本料理の知識や技術を身につけていった。ラビス(深海)という店名には、国土の四方が海に囲まれ、海や魚とのつながりが深い日本へのアレノ氏のオマージュ(敬意)が込められている。

12席あるラビスのカウンター。岡崎さんが寿司を握るのを間近で見ることができる。

ラビスは2022年のミシュランガイドのウェブサイトで「素晴らしい寿司職人、驚くべき品質の食材(大西洋産の活け締め**された魚)、そしてヤニック・アレノのクリエイティブな感覚:ラビスは、うっとりするような日本の美食の頂点に連れて行ってくれる」と評されている。

ここで述べられている「素晴らしい寿司職人」が岡崎泰也(おかざき やすなり)さんである。寿司職人を父親に持つ岡崎さんが料理の道を歩み始めたのは18歳の時。それ以来、20年以上にわたり、一流の料理店で腕を磨いてきた。岡崎さんがアレノ氏と初めて会ったのは2016年、当時働いていた東京・銀座の寿司店だった。

「アレノさんとは料理の話で、すぐに打ち解けることができました」と岡崎さんは振り返る。「彼の話からは、寿司に対する強い情熱が感じられました」

手巻き寿司(大トロ)

特に寿司を愛するアレノ氏は、寿司店をパリに開店することが夢であった。岡崎さんの技術と才能を見抜いたアレノ氏は、パリで一緒に寿司店を開かないかと岡崎さんを誘った。

「実は、フランスに行くことは、私にとって憧れでした。パリで寿司店を開きたいという強い気持ちもありました」と岡崎さんは話す。そして、岡崎さん2018年に日本を離れ、ラビスの寿司職人となった。開店からわずか半年後の2019年に、ラビスはミシュラン一つ星を獲得、その後、2020年から3年連続で二つ星を獲得している。

ラビスのコースディナーは三つのパートで構成されている。最初に、季節の漬物、白アスパラガスの煮浸し、刺身などの料理が提供される。その後が、メインとなる寿司の握り。そして、最後にマッシュルームのアイスクリームと蕎麦茶ヌガー添えなどのデザートとなる(2022年6月現在のメニュー)。

ちらし寿司

岡崎さんが他のシェフとともに考えたメニューに、アレノ氏がアイデアを加え、最終的なメニューが決められる。料理にはしばしば、アレノ氏が開発した「エクストラクション」という特別な技法によって抽出される食材のエキスが加えられる。それ故に、ラビスでは、フランス料理のエッセンスの効いた、パリにあるこの店しかない日本料理が味わえるのである。

「私には二つの目標があります。一つは、三つ星を獲得することです」と岡崎さんは話す。「もう一つが、世界中の人に私とアレノシェフの寿司を食べたいと思ってもらうことです。寿司と言えば、私たちの名前が頭に浮かぶぐらいになりたいです」

日本人とフランス人の料理人のコラボレーションが、寿司、ひいては日本料理の新たな世界を切り拓いている。

* https://www.maff.go.jp/j/shokusan/eat/attach/pdf/160328_shokub-13.pdf
** 活け締めは獲った魚の鮮度を保つための処理方法