Skip to Content

July 2022

現代日本の照明文化の巨匠

  • 東京都中央区の銀座・歌舞伎座
  • 東京都江東区の東京ゲートブリッジ
  • 石井幹子さん
  • 東京都港区芝公園の東京タワー
  • 東京都港区と江東区をつなぐレインボーブリッジ
東京都中央区の銀座・歌舞伎座

石井幹子(いしい もとこ)さんは、数多くの建造物や景観のライトアップを手掛け、現代日本の照明文化の礎を築いた、日本を代表する照明デザイナーだ。

石井幹子さん

近年、美しくライトアップされる日本の景勝地や有名建造物が増えた。照明デザイナーの石井幹子さんは、東京タワー(高さ333メートル)をはじめ、数多くの有名建造物や景観のライトアップを手掛け、現代日本の照明文化の礎を築いた。

東京都港区芝公園の東京タワー

「日本の照明文化の原点は、月光です。なぜなら古来、日本人は月の光を尊いものとし、憧れを抱いてきたからです」と石井さんは話す。「日本の満月は、湿度が高い気候のため、ぼんやりとにじむような、やさしい明るさです。そこには、光と闇をつなぐ無限の濃淡のグラデーションがあります。ヨーロッパなどの満月の冴え冴えとした明るさとは、かなり印象が違います」

石井さんは、そうした日本古来の感性を大切にして、それを生かした照明デザインを追求してきた。

東京都中央区銀座にある歌舞伎専用劇場の「銀座・歌舞伎座」は、日本の満月のイメージでライトアップされている。見事な瓦の大屋根は、歌舞伎座タワー頂部130メートルの高さに設置された“月光のもと”となる照明で照らされている。上空から柔らかな光が降り注ぐが、照明器具は見えず、どこに光源があるのかほとんどわからない。建物正面の白壁は、夏は冷白色(青みを帯びた白)、冬は温白色(オレンジ色を帯びた白)と、1年365日、毎日少しずつ異なる白色光に照らされる。季節の移り変わりに敏感な日本人の感性を映し出している。

石井さんは、東京港のシンボルとして知られる「レインボーブリッジ」(全長798メートル)、「東京ゲートブリッジ」(全長2,618メートル)を始め、これまでに50以上の橋のライトアップを手掛けた。特に橋自体が巨大な建造物である場合、そのライトアップは、相当広い範囲に影響を与えるため、周囲の景観に調和することを最重視し、橋自体の姿を強調するというよりは、周りも照らしながら、橋を柔らかい光で浮かび上がらせるといったデザインにしている。また、メンテナンスのしやすさにも考慮している。さらに、消費電力を極力抑えて最大限の効果を上げるために、吊り橋を支える主塔の上や、空いているスペースにできるだけ多くのソーラーパネルを設置しているという。

東京都港区と江東区をつなぐレインボーブリッジ
東京都江東区の東京ゲートブリッジ

水面に映る光は風やさざ波によって揺らぎ、闇と光が混ざり合って濃淡のグラデーションを描きながら、刻々と変わる。それが橋のライトアップの魅力であり、瞬間、瞬間の揺らぎに出会えることが様々な美しさを見せていると石井さんは話す。

「夕暮れから夜の闇が迫るとともに、照明されたものが浮かび上がります。それは昼のあとには夜のとばりが必ずおりるという太古からの“地球のドラマ”の照明による演出です。壮大なドラマをより美しく表現することが、照明の魅力だと考えています」