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July 2022

伝統のあかり「岐阜提灯」

  • 日本の伝統的な生活空間に飾られる岐阜提灯
  • イサム・ノグチがデザインした様々な種類のAKARI
  • 菊の花など、伝統的な絵柄の岐阜提灯
  • 絵を岐阜提灯に描く職人
  • 提灯の骨組みに和紙を貼る職人
  • テッセンの花が描かれた岐阜提灯
  • 藤とアザミの花が描かれた、現代の生活空間に合った細身のデザインの岐阜提灯
日本の伝統的な生活空間に飾られる岐阜提灯

薄い和紙と竹を細かく割った竹ひごによって作られ、美しい彩色が施された岐阜提灯。灯(あか)りをともせば、やわらかい光の中、花や風景などの色とりどりな絵柄が浮かび上がる。

菊の花など、伝統的な絵柄の岐阜提灯

薄くしなやかな和紙に季節の花々や風景などが描かれる「岐阜提灯」は、その繊細な美しさで広く愛されている。提灯の中の灯りをともすと、灯りを囲む和紙に描かれた洗練された絵柄がやわらかな表情で浮かび上がる。伝統的な絵柄は主に菊や桔梗(ききょう)などの花の取り合わせである。

300年余りの歴史を有する伝統的な岐阜提灯は、岐阜県美濃地方の特産品・美濃和紙と竹ひごを材料として制作されている。和紙は、常に薄いが強度が高く、均一でムラがないことから、表面に着色しやすく、図柄が美しく描けるという。

岐阜提灯は、古くは、1904年に米国で開催されたセントルイス万国博覧会で銀賞、翌1905年にはベルギーで開催されたリエージュ万国博覧会で金賞、1937年のパリ美術工芸品博覧会でも金賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を得て、海外からも注文が増え続けて、発展を遂げてきた。1995年には日本政府(経済産業省。当時は通商産業省)から伝統工芸品に指定されている。

絵を岐阜提灯に描く職人
提灯の骨組みに和紙を貼る職人

岐阜提灯協同組合の理事長を務める尾関守弘(おぜき もりひろ)さんは「欧米には、古くからステンドグラスという、ガラスに光を通して絵を浮かび上がらせるアートがあります。それが日本では岐阜提灯に、相通じるものがあったと思います。加えて欧米の人は光自体に対する繊細な感覚があり、和紙を通した柔らかな光の魅力に気づいたのでしょう」と話す。

特に岐阜提灯に魅了されたのが、国際的に名高い彫刻家で、庭園やインテリアのデザインなども手がけ、様々な分野で活躍したイサム・ノグチ(1904〜1988年)*だった。何度も尾関さんが社長を務める岐阜提灯製造本舗を訪れて製作を学び、1952年に「AKARI」(日本語で「明かり」(照明)を意味する)と命名した提灯を発表。アメリカで開催された数々の展示会でも高い評価を受けた。

イサム・ノグチがデザインした様々な種類のAKARI

尾関氏は「イサム・ノグチの作品は、伝統的な岐阜提灯が培ってきた魅力を新たな角度から引き出したものでした。和紙を通した灯について彼は『こんなに素晴らしいものはない』と絶賛していたと聞きます」と話す。

イサム・ノグチの作品など、新しいデザインの影響を受け、現代の生活スタイルにも合うようなモダンな意匠の岐阜提灯が、若いデザイナーたちによって次々と発表されている。現代の生活空間にも合った新しいインテリアとしても、岐阜提灯は注目されていると言えよう。

テッセンの花が描かれた岐阜提灯
藤とアザミの花が描かれた、現代の生活空間に合った細身のデザインの岐阜提灯

* イサム・ノグチはアメリカのロサンゼルス生まれのアーティスト。日本人の父とアメリカ人の母を持つ。