Skip to Content

September 2022

日本の秋

  • 三浦康子さん
  • 秋の栃木県日光市の龍王峡
  • 中秋の名月の時に飾られる月見団子とススキ
  • 秋分の日前後のお彼岸の際に食べたり、お供えされたりする甘い小豆の餡をまぶした「お萩」
  • 11月中旬、7歳、5歳、3歳の子供を祝う七五三の日の家族(右の子供が持っているのは千歳飴)
  • 富山県富山市八尾町で9月初旬に行われるおわら風の盆で、通りで踊る男女
三浦康子さん

和文化研究家の三浦康子さんに日本の秋の風景、行事、風習、食べ物について話を伺った。

中秋の名月の時に飾られる月見団子とススキ

日本では、秋はどのような季節として人々に受け止められているでしょうか。

日本では、秋を表現するいくつかの決まり文句があります。例えば、「実りの秋」です。秋には様々な作物が実り、収穫の季節を迎えるからです。食材が豊富になることから、秋には美味しい料理も多いです。そのため、「食欲の秋」とも言われます。また、秋は快適な気温で、天気も比較的安定しています。外で活動するには良い季節のため、「スポーツの秋」、あるいは、「行楽の秋」といった表現もされます。いずれにせよ、日本の秋は、多くの日本人にとって、自然の恵みを感じられる食べ物や行事など、楽しみの多い季節です。

日本ではどのような自然の変化から秋を感じることができるでしょうか。

9月になると、マツムシやスズムシなど様々な虫が鳴き始めます。こうした虫の声を聞くと、日本人は「夏の暑さも終わり、ようやく涼しくなってきた」と秋の訪れを感じるのです。11世紀初頭に紫式部が貴族社会を舞台にして書いた長編小説『源氏物語』にも、秋の虫の声について述べられる場面があります。世界的にみても、虫の声を楽しむという文化のある国は、日本を含む東アジア以外ではほとんどありません。

10月、色づきはじめる街路樹や山々の木々にも、秋を感じることができます。日本では美しい紅葉を全国各地で見ることができます。日本は国土の約3分の2は森林に覆われ、しかも、紅葉する落葉樹が多いからです。日本人は古くから、春の梅や桜と同じように、秋の紅葉の美しさを愛でていました。日本最古の歌集で、7世紀後半から編纂されたと言われる『万葉集(まんようしゅう)』には紅葉をテーマにした和歌*が約100首、掲載されています。また、平安時代(8世紀末〜12世紀末)に、貴族は紅葉を鑑賞する宴(うたげ)を開き、和歌を詠(よ)み合う遊びを行っていました。

日本の秋に行われる主な行事を教えてください。

例えば、秋祭りです。秋に収穫する作物の中で、日本人が古くから特に重視していたのがお米です。そのため、秋にはその収穫を神様に感謝するお祭りが全国各地で行われます。神社で行われる儀式では、その秋に収穫されたお米がお供えされます。神様が乗るための小さな神社「神輿(みこし)」を人々が担いで街を練り歩いたり、神様に奉納する歌舞(かぶ)である「神楽(かぐら)」**が神社で演じられたりといった地域もあります。

また、9月中旬頃には「中秋の名月」を愛でる「月見」が行われます。中秋は、旧暦(太陰太陽暦)***の8月15日の十五夜をさします。旧暦では7月から9月が秋にあたり、秋の真ん中である中秋の十五夜は、空が澄んでいて月が最も美しく見えるため、平安時代の貴族の間で、月を鑑賞しながら宴(うたげ)を開いたのが月見の始まりと言われています。月見の楽しみが一般の人々の間で広がるにつれ、秋の収穫物をお供えして、月に感謝する行事へと変化していきました。人々は月の満ち欠けで月日を知り、月明かりを頼りに夜を過ごしました。月は太陽と同様、昔の人々にとって大切な存在だったのです。地域や家庭によって異なりますが、月見の際は主に3つのお供えものをします。サトイモ、サツマイモ、ブドウ、ナシなどの秋の収穫物、満月に見立てた丸い月見団子、そして、ススキです。稲穂に見立てられたススキは、神様が依(よ)りつく「依り代」と考えられています。

その他、日本の秋にはどのような行事があるでしょうか。

「お彼岸(ひがん)」と呼ばれる時期にお墓参りをします。お彼岸は、1年に春と秋の2回あります。秋のお彼岸は、9月23日頃、昼と夜の長さが同じになる「秋分の日」とその前後3日間をさします。秋分の日は太陽が真東から昇って真西に沈むので、西にあるとされ「彼岸」と呼ばれるご先祖様がいる世界と、東にあるとされ「此岸(しがん)」と呼ばれる私たちが暮らす世界が、最も通じやすい日とされています。そのため、多くの人がお彼岸に先祖供養のためお墓参りをするのです。秋のお彼岸には「お萩」をご先祖様にお供えしたり、食べたりします。秋に咲く萩の花から名付けられたと言われるお萩は、蒸したお米を搗(つ)いて丸めたものに、砂糖入りの小豆の餡をまぶした甘い食べ物です。昔、日本では砂糖が貴重品だったので、お萩は「ごちそう」でした。そのため、お彼岸という特別な日のお供えものになったと言われます。

秋分の日前後のお彼岸の際に食べたり、お供えされたりする甘い小豆の餡をまぶした「お萩」

また、晩秋の11月15日には、3歳の男の子と女の子、5歳の男の子、7歳の女の子の健やかな成長を祈る「七五三」という行事が行われます。昔は乳幼児の生存率が低く、7歳まで子供を育てることは大変でした。そのため、神様に子供の健やかな成長を感謝、祈願する行事が行われるようになったのです。この日、それぞれの年齢の子供が、伝統的な着物を着て、家族と神社に参拝(さんぱい)します。七五三では「千歳飴(ちとせあめ)」という飴を食べます。千歳飴の「千歳」とは「長い年月」という意味です。千歳飴は、子供が長生きするようにとの願いを込め、非常に細長い形をしています。飴の色は縁起の良い色とされる紅白です。飴を入れる袋にも、松竹梅や鶴亀などの縁起が良く、長寿にまつわる絵が描かれています。

11月中旬、7歳、5歳、3歳の子供を祝う七五三の日の家族(右の子供が持っているのは千歳飴)

日本の秋ならではの味覚には、どのようなものがあるでしょうか。

秋の味覚として人気の高いものの一つがサンマです。秋、北海道や東北沖の太平洋で獲れるサンマは脂がとてものっています。新鮮なサンマは刺身で食べても美味しいですが、塩をかけて焼くのが一番です。焼いたサンマは、醤油をかけた大根おろしと一緒に食べることが多いです。さっぱりとした味の大根おろしと脂がのったサンマの絶妙なバランスが好まれているからです。

サトイモも秋が旬です。月見の時は、「きぬかつぎ」という料理をお供えしたり、食べたりします。きぬかつぎは里芋を茹でて、皮を剥き、塩などの調味料をつけて食べるものです。また、里芋を使った料理に「芋煮」もあります。芋煮はサトイモ、ネギ、肉、こんにゃく****などの具材を、醤油や味噌などの調味料で煮る鍋料理です。山形県や宮城県などの地域では、家族や友人が集まり、大きな鍋で芋煮を河原で作るパーティ「芋煮会」が秋の風物詩になっています。

秋はキノコも美味しい季節です。日本には5000種以上のキノコが存在していて、そのうち食用とされるのは約100種類と言われています。キノコは、焼いたり、煮たり、炒めたりと様々な方法で食べることができます。キノコの中でも最も貴重で高価なのがマツタケです。マツタケは人工栽培が難しいため、天然物しかありません。しかも、採れる時期も短く、数も少ないのです。マツタケは特に香りが素晴らしいです。焼いて食べても、お米と一緒に炊いて「松茸ご飯」で食べても、衣をつけて揚げて天ぷらにしても、その香りや味を堪能することができます。

コロナ収束後となりますが、海外から来日される外国の方々に、三浦先生は、日本で秋をどのように楽しんでほしいとお考えでしょうか。

秋の紅葉は是非、見てほしいです。神社仏閣の庭園や山々が赤や黄に染まる景色はとても美しいです。紅葉の名所はたくさんありますが、私のお薦めの一つは栃木県日光市の龍王峡(りゅうおうきょう)です。鬼怒川(きぬがわ)が流れる峡谷全体が紅葉に染まり、本当に素晴らしい眺めとなります。

秋の栃木県日光市の龍王峡

有名な秋祭りもたくさん開かれます。例えば、9月と10月には 大阪府岸和田市で300年の歴史を誇る「岸和田だんじり祭」が行われます。「だんじり」と呼ばれる山車(だし)が町を人々によってダイナミックに曳(ひ)き廻(まわ)されます。11月初旬には14台の巨大で豪華絢爛な曳山(ひきやま)が町を巡行(じゅんこう)する佐賀県唐津市(からつし)の「唐津くんち」*****が開催されます。

様々な秋祭りの中で私がお薦めなのは、富山県富山市八尾町で9月初旬に行われる「おわら風の盆」です。300年以上の歴史を持つこの祭りでは、地元の民謡「越中おわら節」と哀愁漂う胡弓(こきゅう)******の調べにのせて、編み笠をかぶった男女が踊り歩きます。踊り手の多くは、この地に生まれて幼い頃から踊りを練習してきた人達です。女性の優雅な踊りや男性の勇壮な踊りなど、素晴らしい踊りを見ることができます。

富山県富山市八尾町で9月初旬に行われるおわら風の盆で、通りで踊る男女

また、先に述べた七五三も見てほしいです。着物を着て楽しそうにしている子供たちと、それを見守る家族の様子を見ていると、幸せな気分になります。日本の習慣や行事には、自分達を支えてくれる物事に対する感謝と祈りがあり、家族や地域との絆を深めたり、道徳心を育んだりする役目もあります。それぞれの習慣や行事の意味を知ると、それらをもっと楽しんでいただけるでしょう。

* Highlighting Japan 2020年10月号「和歌に詠まれた秋の色」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202010/202010_02_jp.html
** Highlighting Japan 2015年11月号「神々のための舞」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201511/201511_02_jp.html
*** 旧暦(太陰太陽暦)は、月の満ち欠けと太陽の周期をもとに作られる暦で、1872年まで日本で使われていた。現在の暦とは1か月程度の差が生じる。
**** Highlighting Japan 2022年6月号「日本食のアンバサダー」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202206/202206_05_jp.html
***** Highlighting Japan 2019年11月号「お祭り料理でおもてなし」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201911/201911_05_jp.html
****** 胡弓は日本の伝統的な弦楽器。