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September 2022

進化する顔認証

  • 顔認証による入退場管理が行われている東京のNEC本社の出入口ゲート
  • マスクを着用していても顔認証が可能
  • NEC Future Creation Hubに導入された顔認証システムによりゲートを通過する女性
  • マルチモーダル生体認証の端末機でセルフレジ機能をテストする。
顔認証による入退場管理が行われている東京のNEC本社の出入口ゲート

日本の企業によって開発された高い精度の顔認証技術が国内外で広がっている。

NEC Future Creation Hubに導入された顔認証システムによりゲートを通過する女性

情報化社会の発展に伴って、日常生活で機器による本人確認が行われる場面が非常に多くなっている。こうした本人認証のなかで、暗証番号、パスワードを入力する「知識認証」や鍵、カード、証明書を用いる「所有物認証」に代わって近年増えているのが、身体的・行動的な特徴に基づく「生体認証」である。

「現在、生体認証には指紋や顔、目の虹彩(こうさい)*や掌(てのひら)の静脈といった身体的特徴を利用するもののほか、筆跡や歩き方といった行動特性に着目する方法があります」と日本電気株式会社(以下:NEC)生体認証・映像分析統括部の高島慎也さんは話す。「なかでも私たちが長年開発に取り組んできた顔認証は、機器に触れたり、手をかざすといったアクションが一切不要で、例えば、ビルのゲートの入り口を通過する際、わずかな時間で高精度な認証を行うことができるというメリットがあります」

NECは、およそ半世紀前の1971年に指紋認証の研究をスタートし、顔認証に関しては、1989年から30年あまりにわたって研究開発を続けている。その仕組みをごく簡単に説明すると、カメラで撮影した照合画像から顔を検出し、そこから抽出した、目、鼻、口の位置、凹凸、傾きなどその人の顔の様々な特徴を、あらかじめ用意した登録画像と比較・照合することで本人かどうかを判別するというものだ。

マスクを着用していても顔認証が可能

2019年に米国商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)が行ったベンチマークテスト**において、NECの顔認証は160万人規模のデータベースで認証エラー率0.4パーセント、検索速度2.3億件/秒を達成し、世界ナンバーワンの評価を得ている。この高い技術が実際に生かされたのが、2021年の7月から9月にかけて開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会である。このとき40を超える競技場や選手村、メディアセンターなどに導入された入退場管理システムは、99.8パーセントという高精度で、延べ400万回におよぶ本人確認を行い、安全かつスムーズな大会運営に大きく貢献した。

近年は新型コロナウイルス感染症の影響でマスクの着用が増えているものの、NECの顔認証では、目の周りなど顔の一部からでも、マスク非着用時と変わらぬ精度で本人認証を行うことができる。こうした信頼性の高さから、NECのシステムは世界70以上の国や地域に導入され、2022年4月には日本政府から文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した。

「今後、顔認証のシステムは、各種情報と連携することで、利便性をさらに向上することができます。例えば、成人が飲食店に入る時、本人であることさえ確認できれば、アルコール提供時に年齢確認をする必要もなくなるわけです」とNEC 生体認証・映像分析統括部の菊池雅也さんは語る。

マルチモーダル生体認証の端末機でセルフレジ機能をテストする。

このほか、NECが開発した顔・虹彩マルチモーダル生体認証は、顔と左右の目の虹彩という3つの独立した生体認証を組み合わせることによりエラー率100億分の1以下の認証精度という、正確性の極めて高い認証を実現し、金融決済や医療現場、重要施設管理など、厳格な本人確認が求められる現場に最適と考えられている。

スマートフォンのロック解除からパスポートまで顔認証の導入が増え続ける中、こうした精度と利便性の高い生体認証が社会の様々な場面で活用されるようになれば、IDやパスワードを記憶したり、メモを取ったり、自分を証明できるような身分証などを持ち歩く必要もなくなり、手ぶらで出勤も旅行も買い物も自在にできるような時代がやって来るかもしれない。

顔認証の仕組み

* 虹彩は、瞳孔(黒目の中心部分)の周りの、ドーナツ状の部分。
** 類似のシステムとの比較により、処理性能を評価するためのテスト。