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October 2022

金沢の金箔

  • 7万回以上、叩(たた)き延ばして仕上がった縁付金箔(厚さ1万分の1ミリメートル)
  • 金箔ソフトクリーム
  • 金箔を貼ったペン立て(左)、酒器(右)、鏡(手前)
  • 1000分の1ミリメートルまで伸ばした金箔を、更に延ばすために専用の紙に載せる作業の様子
金箔を貼ったペン立て(左)、酒器(右)、鏡(手前)

石川県金沢市の金箔づくりは、400年以上にわたって伝統技術を継承している。現在、金沢産金箔は、日本における金箔生産の98パーセント以上を占めるという。

1000分の1ミリメートルまで伸ばした金箔を、更に延ばすために専用の紙に載せる作業の様子

金箔は、金を微量の銀や銅とともに作られた合金をかなり薄く延ばしたものである。日本では、古代から、金箔を貼って覆うことにより、建築物や仏像彫刻、また身近な家具調度類を美しく飾ってきた。中尊寺の金色堂(岩手県)(参照)や京都の金閣寺、日光の陽明門(栃木県)(参照)など、数多くの歴史的建造物にも使われてきた。その金箔の主要産地が石川県金沢市である。現在では、日本における金箔の98パーセント以上が金沢市でつくられている。

江戸時代(17世紀初頭~19世紀後半半ば)で、最大の藩・加賀藩の城下町が現在の金沢市である。加賀藩の、歴代の藩主たちは、伝統的な工芸の育成を奨励し、染色や陶器*などと並んで、金箔づくりも、その主要な一つとして力を入れた。金箔づくりは金沢の町を中心に発展し、400年以上にわたって伝統技術を継承している。

「市内を流れる犀川(さいがわ)の上流で砂金が採れたために金の沢、すなわち金沢と名付けられたといわれるほど、金沢と金のつながりは深いのです。金箔づくりが、江戸幕府によって江戸(現在の東京)と京都に限られた江戸時代にも、実は、金沢では密かに、脈々と金箔づくりが続けられてきて、今日に至りました**」と、石川県箔商工業協同組合事務局長の山賀直久(やまが なおひさ)さんは語る。

金箔は、伝統技術を受け継ぐ金箔づくり職人によって、微量の銀や銅を加えた合金を圧延(あつえん)機で薄く伸ばして切り分けたものを紙に挟み、それを叩(たた)くことで極限まで薄く延ばしてつくられる。金箔は、直接金を叩いても均一に延びないので、必ず何かの間に挟んで薄く延ばす。

金沢の金箔は1グラムの金を1平方メートル(縦100センチメートル、横100センチメートル)の大きさに叩(たた)き延ばしてつくられ、その厚みはわずか1万分の1ミリメートルだ。1グラムの金から約50枚の金箔をつくることができるという。

400年以上続く「縁付(えんつけ)」と呼ばれる伝統的な製法では、特殊な専用和紙を用いる。まず、圧延機で帯状に延びた金を5センチメートル角にカットする。次に、和紙(約21センチメートル角)の間に交互に一枚一枚重ねた後、厚さ1000分の1ミリメートルになるまで叩きの機械に当てて、紙全体に広がるように打ち延ばす。何度も叩くことで、箔の表面がサラサラな扱いやすい状態に変化すると、20センチメートル角のサイズに揃える。さらにそれを大小の正方形や長方形に切り分け、厚さ1万分の1ミリメートルになるまで作業を繰り返してようやく完成する。こうしてでき上がった金箔は、竹製の特別な道具で一枚一枚丁寧に切り揃えられる。

7万回以上、叩(たた)き延ばして仕上がった縁付金箔(厚さ1万分の1ミリメートル)

金箔づくり職人には、何度も丹念に箔を叩いたり、熱が発生するので小分けにして冷ましたり、手際よく和紙に一枚一枚和紙に挟むなど、高度な熟練が必要とされるという。こうした金沢独自の金箔づくりは2020年、ユネスコの無形文化遺産「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」の一つとして登録された。

「静電気が起きにくい湿度の高い気候といった条件がそろった金沢だからこそ、金箔づくりが続けてこられました。1960年代から手間のかからない新しい製法も行われるようになりましたが、伝統的な『縁付』製法でできた金箔は、やはり輝きが違うのです」と山賀さんは話す。

現在、日本の文化財の修復には、必ずと言ってよいほど、金沢の金箔が使われている。また、近年では屋内外のインテリアを始め、日用品やアクセサリー、食料品など、その用途も多彩にひろがり、海外からの需要も伸びている。金沢の街には様々な方法で金箔を販売する多くの店がある。例えば、2015年に東京と金沢を結ぶ北陸新幹線開業をきっかけに販売された金箔に包まれたソフトクリーム***は大ヒットとなっている。こうした金箔の需要の広がりに合わせて、石川県では、金箔づくり職人の後進育成にも力を入れている。例えば、世界的な宝飾品ブランド・ティファニーの助成を得つつ、職人育成プログラムが始められている。金沢の金箔は、今、世界からも注目を浴びている。

金箔ソフトクリーム

* 現在における、染色は「加賀友禅」、陶器は「九谷焼」につながる。
** 江戸時代には金箔作りは一時中断したが、明治時代になり再興したという説もある。
*** Highlighting Japan 2016年6月号「光り輝く金沢の金箔」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201606/201606_11_jp.html