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October 2022

ALPS処理水の海洋放出の安全性

  • 福島第一原発の敷地内に設置されている貯蔵タンク
  • 2022年5月、東京電力福島第一原子力発電所でALPS処理水のサンプルの入った瓶を持つラファエル・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長(中央)
  • 福島第一原発の多核種除去装置(ALPS)
  • トリチウムの濃度比較
福島第一原発の敷地内に設置されている貯蔵タンク

日本政府は国際原子力機構(IAEA)のレビューを受けながら、東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水を、国際的な安全基準に沿った安全かつ透明性の高い方法で、海洋放出する準備を進めている。

2022年5月、東京電力福島第一原子力発電所でALPS処理水のサンプルの入った瓶を持つラファエル・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長(中央)

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方の太平洋沿岸を中心に、津波による甚大な被害を引き起こした。福島県の東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所(以下、「福島第一原発」)では、原子炉を冷却するシステムが停止し、稼働中だった三つの原子炉の燃料が高温となり溶融。それに伴い発生した水素ガスにより、水素爆発が起こり、放射性物質が環境中に放出された。爆発後、原子炉を冷却するなどの対策を行った結果、放射性物質の放出量は急激に減少、同年12月に原子炉は「冷温停止状態」となった。現在まで、放出量は環境にほぼ影響のないレベルを保っている。

しかし、燃料と構造物などが溶けて固まった「燃料デブリ」を冷却するために、原子炉への注水は続けられている。燃料デブリに触れた水は、高い濃度の放射性物質を含んだ汚染水となり、さらにそれが原子炉建屋に流れ込む地下水や雨水と混ざり合い、新たな汚染水を発生させている。こうしたことから、東京電力は遮水壁の設置や地下水の汲み上げなどの対策を実施している。しかし、汚染水の発生を直ちに止めることは困難であるため、2023年秋頃には1000基を超えるタンクが満杯になる予測である。東京電力は福島第一原発の廃炉に向けた様々な作業を進めているが、タンクが敷地を占有しているため、これからの廃炉作業に必要な設備を建設するスペースを圧迫する恐れがあり、また、災害発生時のタンクからの漏洩リスクを懸念する声もある。そのため、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を、多核種除去設備(ALPS)により規制基準を満たすまで浄化処理した「ALPS処理水」を処分して、タンクをなくしていくことは、廃炉と復興に向けて不可欠な作業となっている。こうしたことから日本政府は、6年以上にわたる議論を行い、国内外での実績やモニタリングの容易さを考慮し、2021年4月、ALPS処理水を海洋放出する方針を公表した。

福島第一原発の多核種除去装置(ALPS)

海洋放出の安全性

海洋放出においては、ALPS処理水に含まれるトリチウムを心配する声も上がっている。トリチウムは雨水、海水、水道水など、地球上のあらゆる水、そして、人間の身体の中にも常に存在する放射性物質である。トリチウムは酸素と結びついて、水とほぼ同じ性質の液体として存在するため、水の中からトリチウムだけを分離することは極めて困難であり、現時点でALPS処理水に適用できる技術はない。ただ、トリチウムから出る放射線のエネルギーは非常に弱く、もし体内に入っても蓄積されることはないと見られている。

世界各国の原子力施設でもトリチウムを含んだ水は発生しており、各施設は安全基準を守った上で、それを処分している。こうした施設の周辺において、トリチウムによる影響は見つかっていない。

福島第一原発のALPS処理水は事故前の放出管理目標値である年間22兆ベクレルを上限に、海水で薄めてから海洋放出される。その際のトリチウムの濃度は、1,500ベクレル/リットル未満と定められている。これは日本の安全基準の40分の1、世界保健機構(WHO)が定める飲料水ガイドラインの7分の1である。日本政府は、ALPS処理水の海洋放出が人体や環境に影響を及ぼす影響は、自然界から受ける影響と比べても極めて小さいとしている。

トリチウムの濃度比較

さらに、国際的な安全基準に沿った安全かつ透明性の高い方法でALPS処理水の海洋放出するため、日本政府は国際原子力機関(IAEA)に支援を要請した。IAEAは要請を受け入れ、放出前から放出後まで安全性を厳しくレビュー(評価)することとなっている。その最初のレビューが2022年2月に実施され、IAEA職員と、米国、英国、中国、韓国、ロシアなど8か国の専門家で構成されるタスクフォースのメンバー15名が訪日し、政府や東京電力と議論するとともに、福島第一原発を訪れた。このミッションに関する報告書が同年4月に発表されており、タスクフォースは、東京電力がALPS処理水に関連する施設の設計や運用手順に的確な予防措置を講じていることや、ALPS処理水の海洋放出で人が受ける放射線の影響は、国際的な安全基準に基づき日本が定める水準を大幅に下回ることが予想されること等を指摘している。

2022年5月には、ラファエル・グロッシーIAEA事務局長が福島第一原発を視察した。視察後、グロッシー事務局長は「私たちIAEAは、処理水が太平洋に放出されるときに、それが国際的な基準に完全に適合した形で実施され、放出は環境にいかなる害も与えることはないと確認できるでしょう」といったコメントを発表している。

今後、放出前から放出完了まで行われる海域のモニタリングには、IAEAの研究所や第三国の研究機関も参加するとともに、地元の自治体や漁業者といった方々が立ち合う機会も設けられ、透明性の確保が徹底される予定である。

(ALPS処理水に関する詳細は、以下を参照。https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps.html)

注記: 本記事は経済産業省の了解の上、同省の公表資料に基づき作成している。