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December 2022

沖縄の織物文様

  • 流水と様々な色のもみじをモチーフに染められた紅型(びんがた)で作られた「琉装」(りゅうそう。沖縄の着物)(国宝・琉球国王尚家関係資料)
  • 鳳凰と霞(かすみ)をモチーフに染められた紅型(びんがた)で作られた「琉装」(りゅうそう。沖縄の着物)(国宝・琉球国王尚家関係資料)
  • チェック柄と組み合わせて織られた琉球絣 (国宝・琉球国王尚家関係資料)
  • 御絵図の文様の一部 「御絵図帳」(国宝・琉球国王尚家関係資料)
流水と様々な色のもみじをモチーフに染められた紅型(びんがた)で作られた「琉装」(りゅうそう。沖縄の着物)(国宝・琉球国王尚家関係資料)

かつて琉球王国であった沖縄は、東アジアと東南アジアの海上交易ネットワークで中心的な役割を果たすことで栄えた。そのため、沖縄は様々な国々の文化的影響を受けながら、独自の文様をはぐくんできた。

鳳凰と霞(かすみ)をモチーフに染められた紅型(びんがた)で作られた「琉装」(りゅうそう。沖縄の着物)(国宝・琉球国王尚家関係資料)

今年(2022年)、沖縄県は戦後に日本へ復帰してから50周年を迎えた。そこは、日本の南西端に位置し、亜熱帯海洋性気候の下、大小150以上の島からなる。そして、かつて沖縄は、東アジアや東南アジアの国々との交易で栄え、この地域の海上交易路網の中心に位置していた。

沖縄が琉球王国(1429-1879)と呼ばれていた時代、首都であった首里(現在の那覇市)の首里城*に王府が置かれていた。その当時、那覇と呼ばれていた海岸沿いの街は、首都と外国を結ぶ交易と商業の中心地として発展していた。琉球王国の文化は、この交易を通して多くの国々の影響を受けながら発展した。

当時、外国へ輸出される工芸品は経済の要であり、王府が設置した専門の漆工芸を制作する部署で、文様を含めた様々なデザインが細かく管理されていたという。

那覇市歴史博物館・学芸員の山田葉子(やまだ ようこ)さんは、「工芸品に施される文様は、王府のデザイン部署に所属する絵師が、時には輸入国の好みなどもリサーチした上で考え、受け取る相手に喜ばれるような柄をデザインしていたようです」と話す。

琉球王国以来、沖縄には紅型(びんがた)と呼ばれる、同名の防染技法**を使った独自の染織物がある。紅型に用いられる文様には大きく分けて、中国からもたらされた文様と日本の伝統的文様からもたらされたものがある。中国からもたらされた龍や鳳凰などの文様は琉球で王権の象徴として用いられた。一方、紅型のモチーフによく使われる植物の、桜、梅、かきつばた、もみじは沖縄にはもともと自生せず、明らかに日本の伝統的な文様の影響を受けたものだ。

そうした沖縄以外のモチーフを用いているにもかかわらず、できあがったものに沖縄らしさが感じられる理由は、その色調にある。

「色の明度が非常に高いのが紅型の特徴です。とても色鮮やかで明るい。琉球の美意識が端的にそこに表れています」と山田さんは言う。

かたや、沖縄独自の文様デザインと言えるのが絣(かすり)の織物に見られる柄だ。絣は、染め分けた糸を部分的に使って文様を浮かび上がらせる織物。インド発祥とされ、東南アジア諸国を経て琉球に伝わり、そこから日本各地に広がった。

チェック柄と組み合わせて織られた琉球絣 (国宝・琉球国王尚家関係資料)

琉球王国の時代に作られた「御絵図帳(みえずちょう)」には、多くの絣の御絵図(デザイン画)が記録されている。王族など身分の高い人々が絣織物を発注するときに御絵図帳を参照しデザインを決めたと考えられている。600を超える御絵図が存在したと言われ、那覇市歴史博物館は366点の御絵図が掲載された御絵図帳を所蔵する。

御絵図の文様の一部 「御絵図帳」(国宝・琉球国王尚家関係資料)

当時の織り手が、柄の形から連想される絣の名称を付けたと考えられ、現在まで、その柄や名称は親しまれている。たとえば、飛ぶ鳥を表した「トゥイグワー」、五つの丸雲を表現した「イチチマルグムー」、犬の足跡という意味の「イン・ヌ・フィサー」など、ひと目で琉球絣(りゅうきゅうがすり)だと分かる文様だ。

紅型にあるものを始めとする様々な文様は国際交易を通した交わりを重ねる中から発展したが、絣の文様は沖縄に由来を持つ独自のものである。これら沖縄の文様は、多くの違う文化に触れることを通して生まれた、沖縄の人々の感性を多様に映している。

琉球絣(左から)二羽の飛翔する鳥を描いたトゥイグヮー、五つの丸雲をを描いたイチマルグム、犬の足跡を描いたインヌフィサー
  • * 14世紀の半ばに築かれた。1429年尚巴志(琉球王国の初代国王)が、拠点にしたと伝えられる。その後、約450年もの間、王城として使用された。1945年に第二次世界大戦で焼失し、1992年に現在の城郭が再建され、2019年に正殿が火災で消失したため、現在、復元作業が続けられている。
  • ** 型紙を用いて染める染色技法の一つ。白生地の上に型紙を置き、上から防染糊を付けて、乾燥後、顔料で生地全体を染め、蒸して洗う。防染糊がついた部分だけ白く抜く方法。