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February 2023

冬の石川の寿司

  • ブリ(手前右)など、石川県の様々な魚介類を使った寿司
  • ガスエビと、その緑色の卵の寿司
  • 石川県で獲れるブリ
  • 石川県の冬に獲れる加能(かのう)ガニ
ブリ(手前右)など、石川県の様々な魚介類を使った寿司

日本の本州のほぼ中央部で日本海に面する石川県には、冬、旬を迎えた魚介類をネタにした寿司を堪能するため、多くの人が訪れる。

石川県で獲れるブリ

石川県は、北部が能登(のと)半島として日本海に突出しており、約580キロメートルもの海岸線を有している。その沖合の海は、北からの寒流と、南からの暖流がぶつかる場所で、寒流と暖流それぞれに生息する魚介類が、豊富なプランクトンを求めて集まる日本有数の好漁場である。また、漁場の地形は、深海、浅瀬、岩礁など多様なこともあり、獲れる魚介類の種類も多い。

このように水産資源に恵まれた石川県は、新鮮な魚介類を食材とする食文化が発達している。その中でも人気がある食べ物の一つが寿司である。

「石川の寿司の特徴は、ネタの種類の多さです」と石川県鮨商生活衛生同業組合理事長の寺西正彰さんは言う。「特に冬は、旬を迎える魚介類が多いので、それを目当てに全国各地からお客さんがいらっしゃいます」

石川県と隣県の富山県、福井県を含む北陸地方で、冬が旬の寿司のネタの一つがブリである。日本近海の海を広く回遊するブリが石川県沖に来るのが、晩秋から初冬にかけてである。この時期に獲れる日本海産の「寒ぶり」は脂(あぶら)がのって美味(うま)いと有名だ。11月から翌年2月に県沿岸の定置網漁*で捕れた7キロ以上の寒ぶりは、石川県漁協(漁業協同組合)によって認定され、ブランド名「天然能登寒ぶり」として販売されている。それをネタにした寿司は、冬ならではの一品だ。

また、冬の石川の寿司のネタでは、加能(かのう)ガニと香箱(こうばこ)ガニも有名である。加能ガニはズワイガニのオスで、11月から3月が漁期となっている。その太い脚にはネタとなる身がぎっしりと詰まっている。一方、香箱ガニはズワイガニのメスだ。加能ガニの半分程の大きさだが、甲羅の中にある、オレンジ色の未成熟卵である内子(うちこ)と茶色の粒状の卵である外子(そとこ)を食べることができる。香箱ガニは、資源保護のために、漁期は11月から12月かけての約1か月半のみの限定であるため、冬の極めて短い期間のみ楽しめる味である。

石川県の冬に獲れる加能(かのう)ガニ

その他、甘エビも寿司のネタとして知られているが、ガスエビという希少なエビの人気も高まっている。ガスエビは甘エビの漁の時に、甘エビに混じって一緒に獲れるエビだ。美しい赤色の甘エビと比較して、茶色のガスエビは見栄えがよくないとされてきた。また、日持ちがしないので、地元の限られた人にしかその味は知られていなかった。しかし、近年、甘エビよりも甘く、美味しいという評判が県外にも広まるようになり、今では甘エビよりも値段が高くなっているほどである。寺西さんは「ほかにも、石川県では冬にタラ、イカ、ナマコなど、様々な魚介類を楽しんで頂けます」と話す。

ガスエビと、その緑色の卵の寿司

石川県は日本酒造りでも何百年にも及ぶ長い伝統がある。奥能登を発祥とする能登杜氏(のととうじ)は、日本四大杜氏**の一つであり、石川県の多くの酒蔵で酒造りに携わっている。寿司と日本酒の相性は抜群だ。寒ブリや香箱ガニの寿司と合う石川県産の日本酒を用意している寿司店も多い。寒い冬は、日本酒と寿司との組み合わせを楽しむのに最高の時である。

* 定置網漁は海中に網を固定し、その網で回遊する魚を待ち受けて獲る漁法
** 杜氏とは、日本酒の醸造工程を取り仕切る責任者。四大杜氏とは、能登杜氏、南部杜氏(岩手県)、越後杜氏(新潟県)、丹波杜氏(兵庫県)と言われている。