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May 2023

巨大な鯛が街を練り歩く「豊浜の鯛まつり」

  • 地元の人に「鯛みこし」「おもいつき」という名称で呼ばれている鯛の形をした張子
  • 鯛やみこしとともに、祭りを盛り上げる太鼓うち
  • 竹や木で骨組みを作り、白木綿(もめん)を巻いて全体を覆い、装飾を施して作られた巨大な張子の鯛
  • 津島神社の御仮屋(神を臨時に迎える仮の殿舎)に勢いよく奉納される鯛
  • 2014年の鯛まつりで見ることができた中洲の大鯛の海中遊泳
地元の人に「鯛みこし」「おもいつき」という名称で呼ばれている鯛の形をした張子

愛知県南知多町(みなみちたちょう)において毎年7月に開催されている鯛まつり。「鯛みこし」と呼ばれる、10m以上もある巨大な鯛の張子*が海辺や街を練り歩き、豊漁と海の安全を祈る豪快な祭りだ。

日本列島のほぼ中央に位置する愛知県は、南は太平洋に面しており、中心都市・名古屋市が位置する西部に、南に向かって知多半島が伸びている(地図参照)。その最南端に位置するのが南知多町。漁業が盛んな町であり、特に、しらす、すずき類、くろだい・へだいの漁獲高は、全国でもトップクラスの実績を上げてきた**。南知多町は七つの漁港を持つが、中でも、最も大きな規模の港が豊浜漁港だ。

その豊浜漁港に隣接する5地区が協同して、毎年行っているのが奇祭と呼ばれる「鯛まつり」だ。およそ1世紀半ほど前、豊浜にある中洲神社のお祭りに使う張子のハツカネズミが作られたのが始まりと言われている。その後、ゾウやエビなどさまざまな種類の張り子が作られたが、20世紀初頭には現在のような大きな鯛の張子を作るようになり、その大鯛が街を練り歩き、海でも泳ぐという、今のスタイルへと変わっていったという。なぜ、鯛の形にしたのかについては、大漁祈願の祭りであることから、漁師の神様と言われる恵比寿さまが持つ鯛 になったという説がある。

現在では豊浜周辺の五つの地区が競い合うように、10メートルから18メートルもの大きな鯛を作り上げ、2日間にわたって祭りを行っている。

竹や木で骨組みを作り、白木綿(もめん)を巻いて全体を覆い、装飾を施して作られた巨大な張子の鯛

まつりは、須佐地区(四つの区***の総称)と中洲地区の二か所で行われ、現在、須佐地区の鯛まつりは、地元の津島神社の祭りとして行われ、初日には、神を、海近くに造られた臨時に迎える仮の殿舎「御仮屋(おかりや)」へ迎える儀式が行われる。迎えに行くのは須佐地区の神輿で、そのまわりを鯛みこしが警護し、一緒に街中を練り歩く。重いもので重さ1トンを超える鯛をおよそ60人もの若者が担ぐさまは勇壮である。夜には奉納の花火大会も開催され、にぎやかに1日目は幕を閉じる。

津島神社の御仮屋(神を臨時に迎える仮の殿舎)に勢いよく奉納される鯛

2日目。須佐地区の四つの山車は、豊浜漁港で朝7時から舟に曳(ひ)かれて遊泳したあと、街中を練り歩く。一方、中洲地区の鯛祭りは、一日だけだが、夜多くまで長さ14mの大鯛の練り歩きが行われる。途中、人力で、海に入って海中遊泳を1時間ほど行うが、まつりのクライマックスの一つだ。また、夜にはライトアップされて、昼とは違った姿を見せるという。

鯛とともに祭りを華やかに盛り上げるのが、一緒に街を練り歩く太鼓打ちだ。かつては地区の名家の子供が選ばれていたが、現在は抽選によって決められているそう。また、昔は衣装1枚作るのに家一軒分ほどのお金がかかると言われたほど豪華な装いも、祭りの見どころとなっている。

鯛やみこしとともに、祭りを盛り上げる太鼓うち

勇壮な鯛の姿を一目見ようと、多くの人が集まるという「鯛まつり」。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年から2022年の3年間、まつり自体が中止となった。今年(2023年)は7月23日に開催予定だが、残念ながら鯛の練り歩きは執り行われないそう。人々は、鯛が威勢良く練り歩く行列の光景が見られる日を心待ちにしている。

2014年の鯛まつりで見ることができた中洲の大鯛の海中遊泳

* 「張子」:木や竹による、骨組みの上に紙などを何枚も張り重ねて作ったもの。張りぼて。
** 令和2年度版「知多郡南知多町 漁業の概要」による平成26年~30年(2014年~2018年)の実績。
*** 中村区、鳥居区、半月区及び東部区の4区