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March 2024

コンゴ民主共和国のマタディ橋に継承される日本の技術

  • 2023年に開通40周年を迎えたマタディ橋
    Photo: 柚木世治
  • 工事完了を祝う、日本人スタッフとOEBKスタッフ
    Photo: 辰巳正明
  • 1983年に開通したマタディ橋
    Photo: JICA
  • マタディ橋の上部構造(2014年撮影) Photo: 柚木世治
  • 日本の専門家から維持管理の技術を学び、橋梁の点検をする現地スタッフ
    Photo: IHIインフラシステム
2023年に開通40周年を迎えたマタディ橋 Photo: 柚木世治

大西洋からアフリカ大陸のコンゴ川を約150km遡上した、コンゴ民主共和国のマタディ河川港のすぐ下流に架けられたマタディ橋は、日本が行った国際協力事業によって建設された吊り橋だ。コンゴ川の中・下流域に架かる唯一のこの橋について話を聴いた。

赤道直下に位置するコンゴ民主共和国の首都キンシャサから350km離れたところに位置するマタディ市(右の地図左中央下)にマタディ橋は位置する。(JICA提供)

コンゴ民主共和国に架けられたマタディ橋の支援事業に携わった株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル技術顧問の辰巳正明(たつみ まさあき)さんは、プロジェクトが生まれた背景をこう説明する。

「コンゴ民主共和国東部からザンビアに至る地域はカッパーベルト*と呼ばれる豊富な鉱物資源が分布する地域です。1971年、当時のモブツ大統領はこれらの鉱物資源を大西洋岸の港まで鉄道で一貫輸送することを考えていましたが、日本の佐藤栄作内閣総理大臣(当時)が支援に合意。マタディ橋の建設はこの輸送計画の一環だったのです」

マタディ橋は全長722m、中央支間長520m。上部に道路、下部に鉄道を通す併用橋として計画され、現地の建設及び運営機関としてバナナ・キンシャサ交通公団(OEBK)が同国政府の運輸省傘下に設立された。「OEBKにはプロジェクトの準備期間、建設中、維持管理初期までの間に、計74名のJICA専門家が旧国鉄、旧鉄建公団、旧本四公団などから派遣されました」

1983年に開通したマタディ橋 Photo: JICA

1979年に起工し、1983年に完成、開通したマタディ橋の建設には、日本の最新技術が集結されている。

「マタディ橋が計画された時期、日本では本州四国連絡橋(参照:本州と四国を結ぶ夢の架け橋「瀬戸大橋」)の設計や建設の技術的課題について産官学で調査・研究が実施されていました。列車用線路と道路を併用させる構造とすることや、狭水路部に架橋するという設計が、瀬戸大橋を構成する下津井瀬戸大橋の吊り橋という形式や地形条件と類似することから、相似の形式が適用されました。ほかにも、耐風設計手法など本州四国連絡橋の技術研究の成果が随所に活かされています」

マタディ橋の上部構造(2014年撮影) Photo: 柚木世治

大規模な橋梁事業だったが、予定より14ヶ月も工期を短縮して完成することができ、高い評価を得た。「工期を大幅に短縮できた要因として、 プロジェクトの 施工を担当した日本企業が積極的に最新機器を導入したことと同時に、現地で雇い入れたとび職**の働きも大きく貢献していると思います。当時は瀬戸大橋建設の最盛期も迫っていたので、彼らを日本へ連れて帰りたいと冗談交じりに話をしたものです」

工事完了を祝う、日本人スタッフとOEBKスタッフ Photo: 辰巳正明

また、実際の運用を担ったOEBKのコンゴ技術者の優秀さも際立っていたという。

「1991年にキンシャサ暴動が発生して以降、約20年間日本からの現地支援が途絶えました。この間、現地の主要技術者であったマディアタ氏、カロンボ氏を中心にマタディ橋は維持管理され続けました。私も支援が再開した2012年にケーブル調査のために現地を訪れましたが、再塗装を終えたマタディ橋が完成時と変わらぬ姿で立派に維持管理されているのを見た時には感動しました。まさに彼らの橋に対する情熱と忍耐強い努力の賜物と言えるでしょう」

日本の専門家から維持管理の技術を学び、橋梁の点検をする現地スタッフ Photo: IHIインフラシステム

2023年6月にはコンゴ川右岸の架橋記念公園で、マタディ橋開通40周年を祝う式典が開催された。

「当時のプロジェクトに携わった人たちは現場を離れましたが、コンゴと日本の友好の象徴であるマタディ橋が、50周年、さらには100周年と、今後とも継続して祝っていけるように、コンゴと日本の若い技術者たちが、お互いにコミュニケーションをはかりながら事業協力を続けていってほしいと切に願っています」

* アフリカ南部のザンビアからコンゴ民主共和国にかけて、長さ約500km,幅約80kmにおよぶ世界有数の銅鉱床地帯。世界の陸上銅資源の約1割余りを埋蔵していると推定されている。
** 日本の建設業において、高所での作業を専門とする技能職。鳶(とび)、鳶の者、鳶工とも言う。