VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU
季節ごとの日本酒の多様な楽しみかた

桜の下で日本酒を楽しむ「花見酒」のイメージ。
四季のある日本では、季節ごとに日本酒を楽しむための習慣や行事が根付いている。日本の酒文化に詳しい、「日本の酒情報館」館長の今田 周三さんに、季節ごとの日本酒の楽しみかたについて話を聴いた。
日本酒は季節の伝統行事と密接な関係があるという。
「日本には、「五節句」1と呼ばれる宮中由来の伝統行事があり、季節の節目ごとに特別な酒を飲む習慣があります。例えば、新年を迎える元旦に一年の健康を願う薬酒「お屠蘇2」をいただく習慣が古くからありますが、今では薬酒ではなく日本酒そのものを代わりに飲む家庭も多くなっています。また、9月9日には長寿を願う菊の花を日本酒に浸した「菊酒」が振る舞われます。これらの酒は、厄除け3の意味も持っています」

より暮らしに身近に、季節ごとに楽しむ酒の習慣や、その季節でしか出回らない限定の日本酒もある。
「12月から3月にかけて搾られたばかりの「新酒」。ピチピチとした舌触りや、歯の根元で感じる苦みや渋みのような味わいが特徴です。できたての新酒は、かつては縁起もの4としてたしなまれていました。また、春には満開の桜の下で日本酒を楽しむ「花見酒」があります。今では酒の種類に関係なく、桜の花を愛でながらお酒を楽しむ行為そのものを言いますが、やはり日本酒をたしなまれるかたが多いと思います。夏には、すっきりとした味わいの冷酒が好まれます。
そして秋には「ひやおろし」が出回ります。これは、冬に搾った新酒を秋まで熟成させたもの。穏やかな酸味とコクがあり、秋の味覚との相性が良い季節限定の酒です。冬は、雪景色を眺めながらお酒を飲んで風情を楽しむ「雪見酒」もあります。花見酒と同様、酒の種類に関係なく、雪景色を愛でながらお酒を飲む行為そのものを言いますが、寒い季節ですから日本酒を温めて飲む燗酒がおすすめです。ちなみに寒い冬は濃厚でうま味のある日本酒が好まれますが、脂ののっている魚や鍋料理5とともに食中酒として楽しまれることが多いです」
時季や季節の情景、旬の食と合わせて楽しむ酒は風情があって格別だ。

「春や夏の日本酒は、華やかで軽やかな味わいのものが多く、グラスで楽しむのがおすすめです。秋のひやおろしは、食事と合わせることでうま味が引き立ちます。温めて飲む燗酒は、ぬるめのもの、熱いものと、温度差で味が変化するので、違いも試してほしいです」

Photo: 日本の酒情報館
また、日本を訪れた際には、日本独特の「居酒屋文化」をぜひ体験してほしいと今田さんはすすめる。
「居酒屋6は、豆腐を冷たいままいただく「冷奴7」といったユニークな名前のメニューや「お通し8」というような独特の風習があり、それも含めて新しい体験になると思います。食のお供として酒を飲むのではなく、酒を中心にして酒の肴―あるいは酒肴9と言ったりします―をつまむという日本の飲酒文化を体験していただきたいです」

東京にある「日本の酒情報館」では、酒の製造に関する情報や最新の日本酒文化を学べ、日本酒の奥深さに触れることができる。全国の日本酒を一堂に集め、試飲や飲み比べも楽しめるお酒のミュージアムとなっている。今田さんは「日本酒に詳しくないかたでも、ここで実際に味わいながら、日本酒の多様性を体験できます」と語る。
日本を訪れた際には、その季節に合わせた日本酒をぜひ味わってみてほしい。

Photo: 日本の酒情報館
- 1. 古代中国の暦法で定められた季節の変わり目から派生した日本の宮中行事を淵源とし、江戸時代(17世初頭から19世紀後半半ば)に確立した年間の五つの節句。人日(正月7日)・上巳(3月3日)・端午(5月5日)・七夕(7月7日)・重陽(9月9日)がある。
- 2. 「HIGHLIGHTING Japan」2025年新年号「健康や長寿を願って飲む薬草酒「お屠蘇」参照。
- 3. 厄難をよけること。 災厄を払いのける風習やその方法。
- 4. 幸福や繁栄をもたらすと信じられている物や行為を指す。
- 5. 一つの鍋に、魚介類・肉・野菜などを入れ、食卓で煮ながら食べる料理。
- 6. 日本の大衆的な飲食店で、酒類とともに多様な料理を提供する。
- 7. 豆腐を冷やし、醤油と薬味とともに食べる料理。
- 8. 居酒屋で最初に提供される小皿料理で、席料やチャージの意味も含まれる。季節の食材が使われることが多い。
- 9. 日本酒と一緒に楽しむ料理やおつまみのこと。刺身や漬物、煮物など、酒の風味を引き立てるものが多い。
By MOROHASHI Kumiko
Photo Japan Sake and Shochu Information Center; PIXTA

