VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU
日本酒をより楽しむためのさまざまな酒器

さまざまな日本酒の酒器
Photo: ISHIZAWA Yoji
日本酒を飲むための酒器はとても種類が多い。日本酒をより深く楽しむために欠かせない酒器について、長年、日本酒を酒器に配慮しながら料理とともに客人に供していた和食店の料理人に話を聴いた。
日本酒を楽しむ酒器は実に多種多様だ。直接注いで飲むための酒器には「お猪口」1「ぐい呑み」2「盃」3「升」4などがある。また、それら盃などに日本酒を注ぎやすくするため、いったん酒瓶から一定の量を入れて食卓に置いておく酒器には「徳利」5「片口」6「お銚子」7「ちろり」8などがある。それぞれ形や素材が異なり、同じ日本酒でも酒器によって異なる風味を楽しめるという。国際的な評価ガイドで高く評価された和食店の元店主で、現在も東京都豊島区の大塚駅近くの飲食店「居酒屋 Hana」の料理人である花岡 賢さんに、そんな酒器の楽しみ方について話を聴いた。
「酒器の素材は主なものとして、ガラス、磁器9、陶器10、木製があります。実は日本酒を注いで飲む際、それぞれ味わいの感じ方に違いがあります。ガラスはお酒の香りや酸味、うま味を最も感じやすく、華やかでフルーティな香りの吟醸酒11に適しています。磁器はバランスが良く、幅広いお酒と合います。陶器はお酒の酸味を抑え、うま味を引き立てるので、コクがあってうま味が複雑、かつ力強く濃厚な味わいの、生酛造り12や山廃造り13の日本酒におすすめです。木製の酒器は香りや酸味を和らげるため、穏やかな味わいのお酒に合います」

Photo: ISHIZAWA Yoji

Photo: ISHIZAWA Yoji
また、酒器の形状も味わいに影響を与える。
「口径の大きい酒器はうま味を強調し、口径が小さいとスッキリした味わいになります。例えば、うま味の豊かな純米酒14は口径の広い盃が、すっきりしたスパークリング日本酒は口径の小さいフルートグラスが適しています」
そして、酒器選びは、料理との相性を考えることも重要だと料理人の花岡さんは続ける。
「和食の出汁を生かした料理には、味を邪魔しない磁器や陶器の酒器が向いています。塩味の強い焼き鳥や天ぷらには、ガラスの酒器を使うと酸味が引き立ち、油を流してくれます。すき焼きや煮物のような甘辛い味付けの料理には、ボディのある純米酒を陶器のぐい呑みで楽しむのがおすすめです」
花岡さんは、酒器をよく服装に例えて説明するという。
「服装が人の印象を変えるように、酒器もお酒の味わいを変えます。料理や場の雰囲気に合わせて酒器を選ぶことも大切と考えています。例えば、スーツを着るときのように洗練された印象を与えたいなら磁器のタンブラー。着物を着るときのように和の趣を大切にしたいなら陶器のお猪口。ドレスを着るときのような華やかさを演出したいならワイングラスをそのまま使ってみてください。酒器選びでお酒を楽しむ世界が広がります」
最後に海外の方に向けて、酒器の楽しみ方を教えてくれた。
「日本には「注ぎつ注がれつ」という文化があり、宴席などでお互いがお酒を注ぎ合うことで親睦を深める習慣があります。ボトルから直接注ぐのもよいですが、徳利や片口を使うと風情が増します。日本には焼き物と呼ばれる多くの陶芸の産地、また漆器の産地もありますから、日本を訪れた際は、ぜひ気に入った伝統工芸の酒器をおみやげに選んでください。帰国後も自分の選んだ酒器で日本酒を楽しむと、おいしさも格別でおすすめです」

Photo: ISHIZAWA Yoji
- 1. お猪口…一口でも飲める小ぶりなサイズの酒器

- 2. ぐい呑み…お猪口より一回り大きく、何口かに分けて飲むのに適している。

Photo: ISHIZAWA Yoji
- 3. 盃…口径がお猪口やぐい吞みよりやや大きく、少量の酒をゆったりと味わうのに適する。また、写真のように漆塗りの装飾的なものもあり、婚礼などの儀礼の場でも用いられる。

- 4. 升…もともとはお酒などの量を測るための木製の器。

Photo: ISHIZAWA Yoji
- 5. 徳利(写真左)…首が細く胴体が膨らんだ形をしている。お猪口や盃などへ注ぐ際に使用する。

Photo: ISHIZAWA Yoji
- 6. 片口…縁の片側に注ぎ口がある酒器で、ビッチャーを小ぶりにしたような形をしている。

Photo: 居酒屋Hana
- 7. お銚子…取っ手と蓋のついた、祝いの席などで用いられる注ぎ口付きの酒器

- 8. ちろり…日本酒を温めるために用いる、コップのような形をしている。錫や銅などの金属で作られており、日本酒を湯煎にかけて使用する。

- 9. 磁器…石英などからなる陶石を高温で焼き上げた白くて滑らかな焼き物。薄く、丈夫で割れにくいのが特徴。
- 10. 陶器…粘土を主な原料として、比較的低温で焼いた焼き物。温かみのある質感とやさしい手触りが特徴。
- 11. 吟醸酒…米を丁寧に磨き、低温でじっくり発酵させた日本酒。フルーティーで華やかな香りで、口当たりが軽く、すっきりとした味わい。
- 12. 生酛造り…乳酸菌を自然に育てて発酵を促す伝統的な日本酒の製法。手間がかかるが、しっかりしたコクと酸味、複雑なうま味が特徴。
- 13. 山廃造り…生酛造り12の工程の一部である「山卸し」という重労働の作業を省略した日本酒の製法。山卸しとは蒸した米をすり潰しながらかき混ぜる作業で、これにより、生酛造りはゆっくりとでんぷんを糖化させるのでコクのある味わいに、山廃造りは酸度が高く、ワイルドな味わいとなる。
- 14. 純米酒…米・米こうじ・水のみで作られる日本酒のこと。米のうま味がしっかり感じられ、コクのある深い味わい。
- 15. 切子…日本の伝統的なガラス工芸で、透明なガラスに幾何学模様などを繊細なカットで施したもの。江戸切子はかつて江戸と呼んだ現在の東京の伝統工芸。
BY KUROSAWA Akane
Photo: ISHIZAWA Yoji; Izakaya Hana; PIXTA


