VOL.214 APRIL 2026
THE APPEAL OF YOSHOKU: JAPANESE-STYLE WESTERN CUISINE (PART 2)
日本の洋食文化の起点となった長崎

複数の洋食が一皿に盛り込まれたトルコライスの一例。
長崎県は、江戸時代の海外との交流が制限されていた時期(17世紀半ばから19世紀半ば)に、西洋と交易が行われた日本唯一の窓口として、西洋の食文化がいち早く伝わった地域である。日本の洋食文化の形成に重要な役割を果たした長崎の食文化について、長崎県の広報担当職員に話を聴いた。
日本では、7世紀後半から19世紀後半までの、約1200年にわたり、肉食を控える習慣が広く見られたとされる。しかし、18世紀後半頃、江戸時代の唯一の貿易拠点である長崎の出島1には、西洋の食文化がいち早く伝わり、牛肉やチーズ、バターが病人の体力回復や養生のための「薬」として、食されていたのである。長崎県庁の広報担当職員は、長崎が日本の洋食文化の形成に大きな役割を果たした背景についてこう説明する。
「出島で働くオランダ人と仕事で交流する日本人たちが見聞きした西洋料理が、日本の洋食の原点です。西洋文化に興味のある大名や学識者などがレシピを持ち帰り、見聞録などの「書籍」により各地に広めたことで、後の洋食文化に繋がっていきました」

1863年に出島のオランダ人貿易商や総領事の料理人として働いていた草野 丈吉が開業した日本初の西洋料理専門店「良林亭」2では鶏スープ、牛や豚のソテー、蒸し野菜、パンなどをフルコースで提供されていたという。当時、長崎にはすでに西洋料理を提供する料理店が複数存在していたが、専門店として開業したのはこれが初めてとされている。その後関西地方へも進出し、西洋料理を各地に広めることになった。こうして西洋料理は、日本の他の地域よりも早く長崎の人々の暮らしの中に取り入れられ、地域の食文化として独自の発展を遂げていった。
長崎の代表的な洋食に「トルコライス」というものがある。名前の由来には、ピラフ、スパゲッティ、トンカツの三つの異なる料理をのせていることから「トリコロール」が転じて「トルコ」になったという説や、サフランで炊いた黄色いライスがトルコ料理の「ピラウ(ピラフ)」に似ているからなど、諸説ある。長崎市内を中心に数多くの飲食店で提供されている。
「一つの皿にとんかつ、ピラフ、スパゲッティなどの複数の洋食が盛り付けられているのが特徴です。おかずの組み合わせに決まった形はなく、それぞれの店の工夫が表れています。多様な要素を一皿に組み合わせた料理で、長崎の開かれた歴史を象徴するご当地洋食として親しまれています」
長崎県庁で働く海外出身の国際交流員(CIR)3からも、「パスタとご飯、肉を一度に味わえるのが面白い」「素朴で親しみやすい味」といった声が聞かれるという。
長崎県北部の佐世保市には、1950年頃、米海軍基地に駐留していたアメリカ人からレシピを教わり始まった「佐世保バーガー」がある。市内には25店舗以上の専門店があり、店ごとにレシピは異なるが、そのボリューム感が特徴である。市では佐世保バーガーと名乗るための認定制度を設けており、「注文を受けてから手作りすること」「地元食材を使用すること」「佐世保市内に店舗や工場があること」などが条件とされている。
また、早くからパン文化が根付いていたことから、佐世保市には地元で長く親しまれてきたサンドイッチ店も多く、サンドイッチが日常的な洋食として定着している。佐世保のサンドウィッチはレタス、ハム、トマト、きゅうりといったシンプルな具材に、甘くコクのあるオリジナルマヨネーズで味付けしている店が多い。

Photo: 長崎県観光連盟

Photo: 長崎県観光連盟
同じく佐世保市で1955年に考案されたのが「レモンステーキ」である。アメリカンステーキを日本人の口に合うよう、薄切りの牛肉を用い、焼き上がる直前にレモン果汁を加えた和風ソースをかけることで、さっぱりとした味にアレンジされたご当地洋食だ。「残ったソースをご飯と絡めて食べるのが地元流の楽しみ方です」と広報担当職員は語る。

Photo: 長崎県観光連盟
このように長崎の洋食は、西洋との交易が行われた日本唯一の窓口があった地域として異国の文化を取り入れながら、日本の食生活に合わせて独自の進化を遂げてきた。その歴史に根ざした味わいは、現在も多くの人々に親しまれている。
- 1. 1636年に長崎に築かれた扇形の人工島。江戸時代の鎖国期(17世紀半ばから19世紀半ば)に、西洋との貿易が行われていた唯一の拠点。
- 2. 開業後に「自遊亭」へと名前を変え、1865年「自由亭」へと改称された。現在は「旧自由亭」として長崎市内の伝統的建造物を集めたグラバー園に移築されている。
- 3. 地方自治体が総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施している、「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)」の一つで、自治体等で国際交流活動に従事する外国人職員。
By TANAKA Nozomi
Photo: Nagasaki Prefecture Tourism Association; PIXTA

