VOL.214 APRIL 2026
THE APPEAL OF YOSHOKU: JAPANESE-STYLE WESTERN CUISINE (PART 2) 日本の洋食文化を支え続けてきた金属洋食器

金属洋食器のテーブルセッティング例
Photo: 燕物産

日本では、西洋料理の広がりと共に、スプーンやフォークといった金属製の洋食器が受け入れられ、独自の発展を遂げてきた。その中心にあるのが、新潟県つばめ市のものづくりである。

日本で初めて金属洋食器の製造に本格的に取り組んだのが、新潟県燕市の燕物産株式会社である。十代目当主のささげ 吉右衛門きちうえもんさんは、その始まりを次のように語る。

「1911年に私の祖父である八代目の捧 吉右衛門が、東京・銀座の商店から36人分のスプーンとフォークの注文を受けました。当時は、スプーンを「さじ」、フォークを「びびら1」と呼んでおり、西洋料理の専用の道具は一般には馴染みのない存在でした」

燕市は、江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)から、生活用品や金属製品を手がける職人たちが鎚起ついき2などの技術を培い、金属加工の産地として知られてきた地域である。燕物産は、そうした職人技を生かしながら、西洋の食卓に欠かせない道具作りに挑んだ。中でも、フランスのロココ調3で見られる月桂樹げっけいじゅ紋様もんように、越後えちご地方4の稲穂を中央に配置した意匠の金属洋食器「月桂樹」は、大正時代(1912 年から1926年)から現在まで製造販売が続くロングセラーのシリーズである。

「およそ100年の間、デザインや製法は変わっていません。上野精養軒せいようけん5など、洋食発祥の老舗レストランで当時から使い続けられています。ナイフの背側にある「しのぎ」と呼ばれる溝や、刃の表面の「目通し」と呼ばれるあえて艶を消した研磨は、フランス様式のカトラリーの伝統的な技術を受け継いでいます」

100年前に製造された金属洋食器「月桂樹」(左)。現在も同シリーズの製品が製造されている(右)。
Photo: 燕物産

「ナイフは切れる、フォークは刺さる、スプーンは口にやさしい、というヨーロッパの銀食器が持つ機能性を基本にしています。その上で、美しさも兼ね備えた道具を目指してきました」

捧さんの言葉通り、金属洋食器は、切断、成形、研磨、検品といった複数の工程を経て、一本一本職人の手で丁寧に仕上げられている。そこには、長年培われてきた技術と感覚が息づいている。


研磨工程で一本ずつ仕上げられる金属洋食器。熟練の感覚が品質を支える。
Photo: 燕物産

現在、日本の金属製の洋食器の生産拠点は燕市に集中しており、その生産量は国内の約9割を占めるとされる。燕市は、金属洋食器の一大産地として日本の食卓を支えている。

「洋食が日本の食卓に受け入れられてきたように、食のあり方も時代と共に多様になっています。そうした変化の中で、私たちはこれまで培ってきた伝統的なものづくりを大切に継承しながら、現代の日本人の食べ方に合った道具を改めて考える必要があると感じています。ご飯粒のすくいやすいスプーンや、手になじむフォークなど、今後はよりいっそう日本の暮らしの変化に寄り添った金属洋食器を開発し、この土地で培われ、継承されてきたものづくりを進化させていけたらと思っています」


ご飯粒やソースを無理なくすくえる形状と、日本人の口の大きさなどを考慮して設計されたスプーン
Photo: 燕物産
  • 1. 日本で西洋のフォークが伝わった当初に使われた呼び名。先端が分かれた形状が、物をかき寄せる道具である「熊手くまで」に似ていたことから、新潟県の方言で「熊手」を意味する「びびら」と名付けられたとされる。
  • 2. 銅や銀などの金属板をつちで叩いて成形する加工技法。燕市では近隣で採れる銅を用いた「鎚起ついき銅器」として発展し、生活用品に用いられてきた。
  • 3. 18世紀のフランスを中心に広まった装飾様式。曲線を多用した優美で繊細な装飾が特徴で、家具や建築、工芸品などに影響を与えた。
  • 4. 現在の新潟県に相当する地域のこと。日本海に面し、豪雪地帯として知られる。稲作を中心とした農業と共に、金属加工などの手工業も盛んに行われてきた。
  • 5. 1872年に東京・築地に創業した西洋料理店「精養軒」を起源とする飲食店。現在の本店は上野公園内にあり、洋食、フランス料理、カフェなどを展開している。

By KUROSAWA Akane
Photo: Tsubame Bussan Co., Ltd.

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