VOL.214 APRIL 2026
THE APPEAL OF YOSHOKU: JAPANESE-STYLE WESTERN CUISINE (PART 2)
[日本の技術―次代を担う若手たち]人体の水の代謝回転量とその変動因子を解き明かす

Photo: 佐藤 謙介
人間の体は半分以上が水でできており、生命の維持に水が欠かせないものであることは周知の事実である。しかし、実際に一日にどれだけの水が体内に入り、出ていくのかは長らく不明だった。世界規模の調査により、この人体の水の出入り「代謝回転量(ターンオーバー)」を予測する式を確立し、それが気候や生活環境、骨格筋量、年齢によって変動することを明らかにした、東北大学の山田 陽介教授に話を伺った。
人間は普段飲水だけではなく、食物からも水分を摂取している。一方、失われる水分については汗をかいたり尿や便などで排出したりする以外に、皮膚からも常に蒸発しているという。これらの正確な測定は困難であり、生活環境や摂取する食物の種類や量による個人差も大きいため、体内の水の出入り、つまり水の代謝回転量(ターンオーバー)を定量化1するのは従来難しいとされてきた。それを解き明かしたのが東北大学大学院医工学研究科の山田 陽介教授らの研究チームだ。山田氏は特に人体の水の代謝に着目した研究に携わっており、「ヒトの生涯における水とエネルギー代謝の変動要因の解明」で2024年度の日本学術振興会賞を受賞している(日本学術振興会賞については囲みを参照)。
■山田氏らが確立した水の代謝回転量を予測する式

1076×身体活動レベル +14.34×体重 (kg) +374.9×性別+5.823×湿度 (%) +1070×スポーツ [0,1]+104.6×Human development index (HDI) [0,1,2] +0.4726×標高 (m) –0.3529×年齢(歳)^2 +24.78×年齢 (歳) +1.865×気温(°C)^2 –19.66×気温 (°C)–713.1
※人間開発指数(HDI)とは寿命、教育、生活水準の三分野で国の発展度を測り、0から1の数値で表される。この予測式では、その数値をもとに先進国、中間的な国、発展途上国の三つに分け、それぞれ係数0、1、2を使用する。
※身体活動レベル(座位中心な場合1.5 平均的な場合1.75 高い場合2.0)、性(女性0、男性1)、アスリート(非アスリート0,アスリート1)、HDI(先進国0、中間的な国1、発展途上国2)
「私たちの調査により、大人よりも子どもの方が体水分量あたりの水の代謝回転が速く、体内の水分のうち一日あたり子どもの場合約4分の1、大人の場合約10分の1が失われていることが明らかになりました。失われた分は摂取した水分で補われるため、大人の場合約10日で新しい水に入れ換わっていることになります」と山田氏は話す。
山田氏らは水の代謝回転量を知るために、水素の安定同位体2「水素2(2H)」に着目した。
2Hが含まれる水「2H2O」を5ml程度摂取すると、一時的に体内の2Hの値がわずかに高くなるが、その後は数か月ほどで元の値に戻る。このわずかな値の変化を正確に捉えることができる「安定同位体比質分析計(IRMS)」3を使って、2Hの値が元に戻る速度から、一日の水の代謝回転量を算出することができるのだ。山田氏らはこの方法を用いて、世界23か国に住む生後8日の乳児から96歳の高齢者まで男女計5千604人を対象に水の代謝回転量を測定した。
「2H2Oには全く害はなく、もともと微量ですが体内水分に存在しています。被験者にはこれを少量飲んだ後、定期的にIRMSで2Hの減少量を測定してもらいます。ただ、正確な数値を得るためにはこの装置を扱える研究者が必要であり、一人の研究者が集められるデータには限りがありました。そこで私たちは世界規模で研究者のネットワークを構築し、共同研究としてデータをまとめることにしました。調査は現在も継続中で、規模も拡大し40か国以上約1万3千人分のデータが集まるほどになりました」と山田氏。
■安定同位体水「2H2O」の飲水による水の代謝回転を算出する原理の概念図

図: 山田氏提供の資料より
■年齢と体水分の代謝回転率の関係
(グラフ1)平均値

(グラフ2)個体値と平均値

グラフ1で示すとおり、平均値を見ると成人では一日に約10%の水分が入れ替わっているのに対し、グラフ2では個人差が非常に大きいことが分かる。大規模なデータの収集・分析により、生活環境や気候、体格など水の代謝の個人差を生み出す要因が明らかになった。
この調査により、高温、多湿の環境で暮らす人や、衛生設備が不十分な発展途上国や北極圏など極寒の場所で暮らす人の代謝回転が速いことが明らかになった。また、アスリートや筋肉量の多い人、身体活動レベルの高い人、妊産婦も代謝回転が速いことが分かったという。こうして大量のデータを集めて分析することで、生活環境や身体的特性などの各種要因が水の代謝にどのような影響をもたらすのかを予測する式を確立するに至ったのだ。
「水の代謝回転量を正確に把握することは、災害や有事の際に人が健康を維持するために国や自治体がどれだけの水や食糧を確保しておけばよいのかの戦略立案や、世界規模の気候変動、人口増加による水不足の予測モデル構築にも有益と考えています」と山田氏。また、血液を含む体内の水分が上手く循環することが健康を保つ上で重要なカギとなるとの考えから、水の代謝についてさらに研究を深めていきたいと展望を語った。
日本学術振興会賞について
日本学術振興会賞は、日本の学術研究の水準を世界のトップレベルへと発展させることを目的とし、創造性に富み優れた研究能力を有する若手研究者を早い段階から顕彰しその研究意欲を高め、研究の発展を支援していくために、日本学術振興会4により2004年度に創設された。詳細は日本学術振興会賞ホームページ参照。
- 1. 物事を数値化し客観的な尺度で表すこと。比較や分析が容易となる。
- 2. 一般に扱われる元素と同じ原子番号を持つが中性子数が異なるため質量が異なるもの。科学的性質はほぼ同じだがわずかな質量の違いから精密分析などに利用される。放射能を持たず自然界に安定して存在している。
- 3. 水素を始め炭素、窒素、酸素などの原子番号の小さい、すなわち原子量の軽い物質を極めて精密に測定する分析手法とその装置。
- 4. 日本学術振興会は、昭和7(1932)年に昭和天皇の御下賜金を基金として創設された、学術の振興を目的とする日本で唯一の独立した資金配分機関。学術研究の助成、研究者の養成、学術に関する国際交流の促進、大学改革の支援など多岐にわたる事業を行っている。
By FUKUDA Mitsuhiro
Photo: SATO Kensuke; YAMADA Yosuke

