VOL.214 APRIL 2026
THE APPEAL OF YOSHOKU: JAPANESE-STYLE WESTERN CUISINE (PART 2) [世界に伝えたい日本の伝統文化]言葉にできないものを継承していく―刀鍛冶かたなかじの修行


鍛錬たんれん1の様子。何度も折り返して鍛えることで、日本刀の強度を高めていく。
Photo: 工藤 明日香

外国人初の刀鍛冶かたなかじ2として、日本刀を作り続けるジョハン・ロイトヴィラーさん。作刀さくとうの技術がどのように受け継がれているのか、そして刀鍛冶の修行にはどのような意味が込められているのか。ジョハンさん自身の経験をもとにお話を伺いました。

刀鍛冶の修行は、ほかの職種と比べて、かなり独特な世界だと思います。師匠と弟子は「師弟関係」という強い結び付きのもとで長い時間を共に過ごすため、技術以前に、互いの相性がとても重要になります。双方にとって良い関係であることが、必要不可欠なのです。

刀鍛冶の修行期間は最低でも5年間。しかし、入門してすぐに刀作りに携われるわけではありません。多くの場合、本格的に刀作りに関わるのは4年目以降です。1年目から3年目は、工房の掃除や雑務、道具の管理、小物制作、師匠の補助などが中心となり、基礎を学びながら下積みを重ねます。師匠の作品は数百万円以上という高値で取り引きされるため、ある程度の技術が身に付くまでは刀作りの手伝いは任せてもらえず、実際に携わるようになってからも、常に大きなプレッシャーと緊張感の中で仕事をすることになります。

また、技術の継承方法も独特です。基本的に師匠が弟子に細かく教えることは少なく、「見て覚える」「技術を盗む」という姿勢が当たり前とされています。弟子は師匠の作業を日々観察し、自ら考え、試行錯誤しながら技術を身に付けていきます。

更に、労働組合のような弟子の身分や待遇を保証する仕組みはなく、修行環境は工房ごとに大きく異なります。恵まれた環境で学べる人もいれば、厳しすぎる状況に追い込まれてしまう人がいるのも現実です。そうした中で弟子は、忍耐強く努力を重ね、自ら技術を身に付け、独立後に一人でも刀を作れる力を養うことが何より重要になります。独立した時に頼れるのは、自分の根気と覚悟だけです。だからこそ、修行とは教えてもらう期間ではなく、「自分の力だけで立てるようになるまでの時間」なのだと思います。

華やかに見える作刀の世界の裏側には、日々の地道な積み重ねと、厳しい現実があるのです。刀鍛冶の修行は決して楽な道ではありませんが、それでもなお、日本刀という伝統を未来へ繋ぐために、多くの人がこの世界に身を置いています。

日本刀が一本出来上がるまでには、いくつもの工程があります。鍛錬たんれん1、火造り3、焼き入れ4、そして最後の仕上げ。どの工程も欠かすことができず、その一つ一つが刀の出来を大きく左右します。火の加減や温度、つちの打ち方、わずかな判断の遅れや気のゆるみが、そのまま仕上がりに表れてしまう世界です。常に集中力を保ち、一瞬も気を抜かずに作業できるかどうかが問われます。


火造り3を終えた刀。形を作り上げていく火造りは、日本刀の刀身とうしんを決定づける重要な工程だ。
Photo: 工藤 明日香

日本刀には側面に護摩ごまはしと呼ばれる二本の細長い溝を彫ったものもある。装飾的な美しさのほか、刀身の軽量化などの実用性も兼ねている。
Photo: 工藤 明日香

弟子の頃や独立したばかりの頃は、技術が安定せず、思うようにいかないことの連続でした。失敗はそのまま材料や時間の損失に繋がります。一本の刀にかかる責任の重さを思うと、日々のプレッシャーやストレスは決して小さなものではありません。それでも今振り返れば、その緊張感こそが自分を成長させてくれた原動力だったように思います。「次の一本をどうすればもっと良くできるか」―そのことを毎日考え続けることが、自然と自分の鍛錬になっていました。

刀作りには、終わりがありません。どれだけ打っても「これで十分だ」と思えることはなく、次の課題が見つかります。しかし、そのゴールのない道を歩み続けることこそが、刀鍛冶という仕事の一番の面白さでもあります。


刃文はもんを焼くため、焼き入れ4の前に刀身とうしんに土を置く「土置き」を行う様子。焼き入れの際の熱の入り具合を調整するための作業である。
Photo: 工藤 明日香

焼き入れ4を経て、刀身に「刃文」という線状の模様が表れる。刃文は日本刀を鑑賞する際の見どころの一つである。
Photo: 工藤 明日香

現代の刀鍛冶は、鎌倉時代(12世紀末から14世紀前半)に作られた名刀を手本に研究と制作を重ねています。いわゆる日本刀の完成形が確立された時代の作品です。しかし、当時の製法が詳細に残っているわけではありません。どのような材料を使い、どのような工程で作っていたのか。正確な答えは誰にも分からないまま、私たちは模索し続けています。また、鎌倉時代からすでに約700年が経ち、その間に技術も材料も、環境も大きく変わったはずです。「今の常識」が、必ずしも「当時の常識」と同じとは限りません。だからこそ、教わった技術だけに頼ることも、現在の定説だけを信じることもできません。これで良いのか。ほかに方法はないのか。本当にこれが正解なのか。日々自分の仕事を疑い、考え、工夫を重ね続ける必要があります。700年の間に失われた技術もあれば、まだ気づいていない工夫もあるかもしれません。昔の名刀を再現するということは、単に形を似せることではなく、その背景にある「技術そのもの」をもう一度見つけ出すことなのだと思います。その答えを探しながら、今日もまた一本の刀と向き合っています。

ジョハン・ロイトヴィラー
スイス出身。17歳の時に展示会で日本刀の美しさに魅せられ、その後刀鍛冶になることを志して2017年に来日。5年間の修業を経て、2024年に外国人として初めて刀鍛冶の国家資格を取得。独立後は広島県に工房を構え、2025年度「現代刀職展 作刀の部」で努力賞一席及び新人賞を受賞した。刀匠とうしょう5名は光綱みつつな
Photo: 工藤 明日香
検索:ジョハン・ロイトヴィラー

  • 1. 金属を打って鍛えること。平たく打ち延ばしながら何度も折り返して鍛えることで、不純物を取り除き、炭素の含有量を均一化させる狙いがある。
  • 2. 刀を作る専門の職人。
  • 3. 金属を加熱して、力を加えながら変形させて形を作り上げること。鍛造たんぞうともいう。
  • 4. 高温に熱した金属を水や油などに入れて急激に冷却し、硬化させること。
  • 5. 刀鍛冶と同義。

By Johan Leutwiler
Photo: KUDO Asuka

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