VOL.200 FEBRUARY 2025
HISTORIC JAPANESE PUBLIC ARCHITECTURE OF THE MODERN ERA
丘の上の双眼鏡と称される北九州市立美術館

中央上部の2本の直方体の筒が印象的な北九州市立美術館の外観。
北九州市立美術館は1974年に開館した、西日本における公立美術館の先駆けだ。建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞1を受賞し、「ポストモダン建築2の旗手」とも言われ、世界的に著名な建築家、磯崎 新3が手がけた代表作の一つとしても知られる。この建築の魅力について美術館のPR担当者に話を聴いた。
福岡県北九州市は、九州の最北端に位置し、人口約91万人(2025年1月1日推計4)を有する九州の主要都市の一つだ。その公立美術館として設立された北九州市立美術館は、新幹線の停車駅であるJR小倉駅から路線バスで30分ほどの、美術の森公園内の小高い丘の上に建っている。美術館の歴史や魅力を、美術館普及係長の阪上 壮一郎さんはこう話す。
「北九州市立美術館は建築家の磯崎 新氏が設計したもので、磯崎氏の初期の代表作と言われています。訪れた方の目にまず飛び込んでくるのは建物正面から見える大きくせり出した、二つの直方体の筒を思わせる外観です。この直方体の筒は一辺9.6メートルの正方形を基本ユニットとし、それを組み合わせた構成になっています。また、シンメトリー(左右対称)が徹底されているエントランスホールも見どころです。地元の方達からはその外観から「丘の上の双眼鏡」と呼ばれ、北九州市のランドマークとして親しまれています。まずは、その印象的な外観のデザインが特徴の一つです。山に囲まれた地形を生かして建てられた美術館自体がまるで絵画のように美しいと言われるかたもいらっしゃいます」
そして、ポストモダン建築の旗手である磯崎氏ならではの特徴は、内部空間にも見ることができるという。
「当時、主流であったモダニズム建築は合理的かつ機能主義的になりすぎたために批判が起こり、1970年代頃から、デザイン性、装飾性、さらにはより建築家の個性や感性を重視するポストモダン建築が生まれました。この美術館は、個性的な外観デザインもさることながら、内部空間も例えば左右対称(シンメトリー)が徹底されたエントランスホールや、中央の池の周りに円柱が並び中世ヨーロッパの中庭を思わせる空間のアトリウムは、ポストモダン建築の特徴がよく表れています」

Photo: 北九州市立美術館

Photo: 北九州市立美術館
「美術館のコレクションは、主に、国内外の近現代美術を中心に8,000点を超えます。絵画、彫刻、版画などジャンルは多岐に渡り、ルノワールやドガ、モネなどの印象派、浮世絵5などもあります」
高台の静かな立地の美術館からは北九州市の市街地や遠くの海まで望めるという。
「館内にあるカフェでは市内の老舗ホテルのシェフ提案によるお食事などを楽しみながら景色も一望できます」

Photo: 北九州市立美術館
50年を経てもなお新鮮な建築美を誇る美術館。施設内の看板は日本語、英語、中国語、韓国語に対応している。北九州市を訪れる機会があれば、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
- 1. 1979年にアメリカの実業家であるジェイ・プリツカーと妻のシンディによって設立された、建築を通じて人類や環境に一貫して意義深い貢献をした存命の建築家を対象とする賞。建築界のノーベル賞と言われている。
- 2. 画一化、合理化されたモダニズム建築への批判から提唱された建築様式。1977年に評論家 C.ジェンクスが著作の中で命名した、現代建築の傾向をさす言葉。装飾性や過剰性、歴史性、象徴性などの回復を目指した。
- 3. 1931年生、2022年没。大分県生まれの建築家。2019年「プリツカー賞」を受賞。国内外で活躍した。大分市に生まれた磯崎氏がてがけた初期の建築は大分県や福岡県に多い。
- 4. 2025年1月に発表された北九州市の推計人口及び推計人口異動状況より。
- 5. 17世紀から19世紀の日本で発展した木版画で、風景や人物、役者などを描いたもの。
By TANAKA Nozomi
Photo: Kitakyushu Municipal Museum of Art; PIXTA


