VOL.212 FEBRUARY 2026
CYCLING JAPAN 日本が切り拓いた電動アシスト自転車の量産化の歴史

1993年に発売された電動アシスト自転車「PAS」の初号機
Photo: ヤマハ発動機

モーターで人の漕ぐ力をサポートして楽に乗ることができる電動アシスト自転車は、世界に先駆けて日本で量産化されてきた。坂道や都市部での走行を想定した電動アシスト自転車の開発の経緯と技術的背景について、メーカーの担当者に話を聴いた。


子どもを乗せることが可能になり、電動アシスト自転車は子育て世代へと普及した。
Photo: ヤマハ発動機

自転車は、日常の移動を支える便利な乗り物として、人々の暮らしに深く根付き普及してきた。その自転車が大きく進化したきっかけが、電動アシスト自転車の誕生である。世界で初めて電動アシスト自転車を販売したヤマハ発動機株式会社で長年電動アシスト自転車事業に関わっている石井いしい 謙司けんじさんは、当時の状況を振り返る。「1970年代後半、日本では環境問題やエネルギー問題が社会課題として注目され始め、オートバイメーカーである当社も、今までとは異なる環境に配慮したモビリティの研究が進められました」

1980年代後半の日本には既に自転車が約6,000万台普及していた。日常の移動手段として自転車が広く使われる一方、日本の都市や住宅地には起伏のある地形が多く、通勤や買い物、荷物を伴う移動において、坂道が自転車利用の大きな障壁となっていた。そこで、すでに生活に広く定着していた自転車を、日本の地形や暮らしに適した形で、坂道を楽に移動できるように改良できないかという発想が生まれた。自転車の弱点とされてきた坂道を技術によって補助できれば、幅広い人が、より多くの場面で自転車を活用できると考えたのである。

こうしたことから人の漕ぐ力を検知し、その強さに応じてモーターが補助する「パワー・アシスト・システム」の開発が1988年から本格化した。しかし、人が漕ぐ力とモーターの力を自然に調和させることは容易ではなかった。「人がペダルを漕ぐ力を検知し、その力の強弱に応じてモーターが滑らかに反応するよう制御する必要がありました。動きがギクシャクすると、乗る人が違和感を覚えてしまいますから」と石井さんは語る。

試行錯誤の末、1993年11月、世界で初めて量産化された電動アシスト自転車「PASパス」が誕生した。PASの呼称はPower Assist Systemパワー・アシスト・システム の頭文字を取ったもので、まず神奈川県・静岡県・兵庫県の各地域限定で発売が開始され、導入の効果が確かめられた後、翌1994年に全国発売された。「発売当初は主に体力が落ちた高齢者のお客様に多く使っていただきました。体力が落ちても坂道を安心して楽に走れる点に価値を感じていただけたのだと思います」と石井さんは振り返る。


バッテリーと電動モーターのセットにより、ペダルに動力を伝えるパワー・アシスト・システム・ユニット
Photo: ヤマハ発動機

1990年代後半になると、バッテリー性能をはじめとする技術開発や生産技術の向上による量産効果、販売増などにより価格が下がり、電動アシスト自転車はより広く家庭に浸透していった。1997年にはテレビCMなどを通じて、認知度が更に高まり、主婦層を中心に需要が拡大していった。2000年代以降は、子どもを前後に乗せる「子乗せ」モデルをはじめ、通勤や買い物などの用途に応じたバリエーションが拡大し、日常生活に定着していった。

「子育て世代の方が毎日の子どもの送り迎えに電動アシスト自転車を使う光景が当たり前になるとは、開発当初には想像していませんでした。実際の暮らしの中で役立っている様子を見ると、この事業に関わっている者として大きな手応えを感じます」と石井さんは語る。

電動アシスト自転車の技術は海外にも広がっていった。特にヨーロッパでは、都市部での日常的な移動やレジャー用途を中心に「eBike1」の利用が拡大しており、その基盤となる技術に日本で培われた電動アシスト自転車のノウハウが生かされている。

「PASの発売から3年後の1997年に、当社は電動アシスト自転車用パワーユニットの海外(欧州)への供給を開始しました。それが現地メーカーの自転車に搭載され、欧州でも日本で製造されたヤマハ製パワーユニットを搭載した電動アシスト自転車の発売が始まりました。その後、普及が進み、「eBike」という名称が生まれることになります。日本発の技術が海外の製品の一部として定着していったのです」

現在電動アシスト自転車は、主婦や高齢者といった利用者層による日常利用に留まらず、通学や通勤の実用用途から、アウトドアなどのスポーツ用、観光地での手軽な移動手段としての街乗りレンタサイクルなど、その活用範囲を広げている。今後について石井さんは「電動アシスト自転車を実用やレジャーシーンに留まらない、新しいコンセプト提案を続けていきたいですね」と展望を語る。


スポーツタイプの電動アシスト自転車
Photo: ヤマハ発動機

電動アシスト自転車は若者向けにカラーバリエーションを増やし、通学用としても活用されている。
Photo: ヤマハ発動機
  • 1. 電動アシスト自転車の一種で、主にスポーツタイプの自転車にモーターを搭載した自転車の総称。

By TANAKA Nozomi
Photo: Yamaha Motor Co., Ltd.

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