VOL.199 JANUARY 2025
[NEW YEAR'S ISSUE 2025] CELEBRATING A BRIGHT NEW YEAR IN JAPAN
正月の着物の装い「晴れ着」-その伝統と現代的なアレンジ-

Photo: ColBase
日本の伝統的な衣装である着物。新年を祝う「晴れ着」と呼ぶ、特に女性の着物について、歴史や伝統、現代的なアレンジについて着物を研究している専門家に話を聴いた。
「日本人はかつて、新年を迎える際に着物を新調する慣習があったくらいに正月に着る着物にこだわりました。日本では、お正月や祭礼といった年中行事が行われる特別な日を「ハレ(晴れ)の日」と呼びますが、その晴れの日に着用する着物を「晴れ着」と呼び、おめでたい伝統的な吉祥模様*を友禅染**や和刺繡などの技法によって表わしました」
そう教えてくれるのは、日本と東洋の染織文化史、とりわけ近世の着物に詳しい東京国立博物館工芸室長の小山 弓弦葉さん。
今でも結婚する前の女性は袖の長い「振袖」を着用することが伝統的なマナーとなっており、晴れ着の中でも、特にあでやかで趣向をこらしたデザインのものが多い。その振袖の起源は、江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)にさかのぼり、最も袖が長いものは1メートルほどもあったという。小山さんは説明する。
「例えば、19世紀の作例「白綸子地雲御簾橘模様」(写真参照)は晴れ着としての振袖の代表的なものの一つです。柄は、宮中風の雅やかな御簾***が風になびく間から、常緑樹であることから不老長寿の象徴として吉祥模様とされた橘が友禅染と刺繡で表わされています」
小山さんによれば、もともと「振袖」は、体温が上がりやすい子どもの体の熱を調節しやすくするために、着物の両脇にあたる部分を開けることで「振り」ができたことが始まりだった。
17世紀初頭から徐々に広まり始め、17世紀末頃には次第に袖の長さが長くなり、18世紀末頃になると1メートルほどの長さになったそうだ。

Photo: ColBase
「日本の近代化が本格的に進む19世紀末以降でも、日本では女性の多くは着物を着ることの方が洋服を着ることよりも日常的でした。そのため、お正月などには晴れ着を着て、心も晴れやかな気分になったものです。そして、大正時代(1912年から1926年)には欧米の文化の影響を受けて、鮮やかな合成染料を用いた、洋風の模様を友禅染で染めた振袖が流行しました。写真の作例「振袖 青縮緬地花園風景模様」は、まるで油彩画のようなお花畑が広がる風景模様を鮮やかな青を背景に染めた振袖ですが、正式な家紋が入っていて、この着物がフォーマルな場で着用されていたことがわかります(写真参照)」

Photo: ColBase
このように鮮やかなヨーロッパ風の風景模様なら、日本人だけではなく、海外の女性にも似合いそうなのでは、と小山さん。
「日本人の場合は、振袖は結婚前に若い女性だけしか着てはいけないというマナーに従おうという意識がありますが、日本人でなければ、そのような慣習は特段意識しなくても良いと私は思います。振袖の方が結婚後の女性が着用する留袖****よりも華麗で美しい模様が染められていますから、特に海外の女性にはおすすめです」
「最近では、日本でも着物をもっと日常生活の中に取り入れて自由にアレンジしようとする動きがあります。例えば、アーティストのYOSHIKIさん(ロックバンド X JAPAN のリーダー)がプロデュースしたYOSHIKIMONOが、海外の女性でも気軽に着用できるスタイルの着物を提案しています。前後を逆にしてドレスのように着ることもできるYOSHIKIMONOは、欧米スタイルのパーティーにも、民族衣装をドレスコードにしたフォーマルな儀式の場でもモダンな着こなしができるでしょう」

Photo: ColBase

Photo: YOSHIKIMONO 2020 S/S COLLECTION
「日本では、新年に向けて「晴れ着」を新調することは、自らもすがすがしく新たな気分で新年を迎えるという文化的な意味がありました。現代の日本では、そのような伝統的な慣習が薄れつつありますが、昔の人々の新年に対する思い、心は伝承しながらも、新しいアレンジの着物も取り入れて、新年の晴れ着を、あでやかに、かつ自由に楽しみたいものです」
* 繁栄や長寿を表し縁起が良いとされる文様(柄)のこと。橘、鶴、亀、藤、扇など。
** 日本を代表する着物を染める技法。17世紀の後半から18世紀にかかけて活躍したとされる宮崎友禅の扇絵が流行したことから、その画風を取り入れた着物の模様が広まった。2023年6月号「振袖 白茶縮緬地梅樹衝立鷹模様」参照。
*** 神殿や貴人の御殿に用いる簾。
**** 振袖に対して、既婚後の女性が着用した袖丈を詰めた和服を指す。現在では既婚女性の礼服として着用されることが多い。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: ColBase; YOSHIKIMONO 2020 S/S COLLECTION

