VOL.199 JANUARY 2025
[NEW YEAR'S ISSUE 2025] CELEBRATING A BRIGHT NEW YEAR IN JAPAN
健康や長寿を願って飲む薬草酒「お屠蘇」

お屠蘇用の伝統的な器一式の一例。右の銚子にお屠蘇を入れて、左側の盃に注いでいただく。
「お屠蘇」は、日本で古くから新年を迎える際に飲まれてきた薬草酒だ。漢方薬剤師に、お屠蘇の歴史や目的、そして現代における楽しみ方について話を聴いた。
「お屠蘇は、日本酒あるいは本みりん*に様々な漢方の生薬をブレンドした「屠蘇散」を漬け込んで作られた薬草酒です。新年を迎える際にいただく薬草酒として古くから日本人に親しまれてきました。生薬**が持つ様々な力を借りて一年の無病息災を願う気持ちが込められています」と、北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センターの薬剤師 緒方 千秋さんは説明する。
「健康や長寿を願って新年にお屠蘇を飲むことは、古きよき風習として現代まで続いており、年始の恒例行事となっています。屠蘇という言葉の2文字のうち、「屠」には邪気を払う、「蘇」には魂がよみがえる、という意味があります。お屠蘇は、邪気を払い、新しい新年を清々しく迎えたいという願いが込められた飲み物なのです」。
お屠蘇の歴史は古く、古代中国から日本へ伝わり、9世紀初頭に嵯峨天皇(第52代。在位809年から823年)が屠蘇散をお酒に浸して飲んだと伝わり、このことから宮中における正月の飲み物として定着したようだ。のちに江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)に今でいう本みりんが甘めのお酒として広まったことに伴ってお屠蘇の風習が庶民にまで浸透していった。

Photo: 北里研究所病院漢方鍼灸治療センター

お屠蘇の簡単な作り方と伝統的な飲み方の手順はこうだ。薬局やスーパーマーケットなどで市販されている屠蘇散を用意する。今は薬草をブレンドしたティーバッグ状なので、一年の最後の日、12月31日の夜にそのまま日本酒あるいは本みりんに浸して一晩おく。翌日の元旦の朝、屠蘇散を取り出して、お正月らしい酒器(写真参照)に入れて、家族そろって、年少者より順にお屠蘇をいただくのが伝統的な飲み方だという。日本の家庭では、正月の特別な料理であるおせち料理(「一年の幸せを願う新年のおせち料理」参照)を用意していることも多いが、料理をいただく前に、まずお屠蘇をいただくことが伝統的には正しいとされている。
こうした年始の伝統的な行事の一環として飲まれるお屠蘇だが、緒方さんは、その目的や活用についてこう説明する。
「例えば、お屠蘇に使われている生薬の一つ、山椒は、胃を健やかに保ち、消化を促進する作用があります。そして、この山椒は日本では料理に活用する身近な香辛料でもあります。屠蘇散によくブレンドされているほかの生薬では、丁子はクローブ、大棗はナツメ、陳皮はウンシュウミカンの皮、肉桂はニッケイの樹皮、つまりシナモンといったように、料理で使う身近な香辛料やくだものなどで、ご自身で用意することも可能です。丁子(クローブ)は胃腸の消化機能を促進、ナツメは緊張緩和、滋養強壮、陳皮やシナモンは胃腸の働きを整えるとされています。ほか、桔梗はキキョウの根を乾燥させてもので、鎮静、抗炎症作用があり、肉厚の「オオミサンザシ」の成熟果実の種を除いた山査子は消化不良や胃腸の働きを整えるので、入れることもおすすめです。これらの材料は、漢方薬店や中華料理食材店などで手に入ります。このように、一つひとつの生薬は目的が違いますが、それらを組み合わせた屠蘇散は総じて健康増進にとてもよいものと言えるでしょう。
また、屠蘇散を日本酒やみりんではなく、赤ワインに入れて火を通してホットワインにする、紅茶やミルクティーに加えてスパイスティーにしてみるといった飲み方も可能です。年始に限らず現代風にアレンジして活用することもおすすめしたいです」


Photo: 北里研究所病院漢方鍼灸治療センター
* 屠蘇に使用する「本みりん」は、蒸したもち米や米麹、焼酎もしくは醸造アルコールを原料にし、40日から60日かけて糖化、熟成させた酒類調味料。もともとは飲用が主目的であったが、現在は調味料として用いられることが多い。なお、本みりん以外は、お屠蘇用としては向かない。
** 植物の葉や茎、根、鉱物、動物の中で薬効があるとされる一部分を加工したもの。漢方薬は生薬を組み合わせた薬のことを指す。
By TANAKA Nozomi
Photo: Kitasato University Oriental Medicine Research Center; PIXTA


