VOL.211 JANUARY 2026
JAPAN AND UME 日本の伝統的な健康食品「梅干し」

梅干しの一例。

梅の実を塩に漬けて天日で乾燥させた梅干しは、平安時代(8世紀末から12世紀末)から薬や保存食として利用されてきた日本のスーパーフードだ。その製法や効能について、日本を代表する梅の産地である和歌山県田辺たなべ市梅振興室の担当者に聴いた。

梅干しが日本で食べられるようになったのは、平安時代の中期以降と言われている。この時代に書かれたとされる日本最古の医学書「医心方いしんぽう」には梅干しの効能が取り上げられており、当時は薬として利用されていたことが分かる。その後、鎌倉時代(12世紀末から14世紀前半まで)以降になると一般の人々の間にも梅干しが広まった。軽くて保存性に優れ、栄養補給もできることから、特に戦に向かう武士の間でよく食べられていたという。

日本を代表する梅の生産地の一つが和歌山県だ。この地で本格的な梅の栽培が始まったのは、17世紀頃のことである。和歌山県田辺市梅振興室の前田まえだ 稜太りょうたさんは次のように語る。

「紀州きしゅう藩の田辺領(現在の田辺市周辺)の土地は急斜面が多く、米づくりに適さなかったため、当時の領主である安藤あんどう 直次なおつぐ1が、やせた土地でも育つ梅の栽培を奨励したのが始まりと言われています。この政策によって梅の栽培が広まり、梅干しが紀州の名産品となりました。江戸(現在の東京)にも出荷されていた記録が残っています」

梅干しには実が小さくて硬いものから、実が大きくて柔らかいものまであり、産地によって異なる。

例えば、和歌山県の代表的な梅の品種「南高梅なんこううめ」を使った梅干しは肉厚な果肉が特徴だ。その秘密は収穫方法にある。梅シロップや梅酒(参照:家庭の味から世界の酒へ―梅酒の魅力 | January 2026 | HIGHLIGHTING Japan)に使われる青い梅の実とは異なり、梅干し用の梅の実は木の上で完熟して自然に落下するのを待って収穫するのだ。毎年6月頃になると、梅農家は畑一面にネットを敷きつめ、落ちてくる完熟梅を集めるという。


南高梅なんこううめの実。実の大きさ、皮の薄さや肉厚な果肉が特徴。
写真提供:田辺市梅振興室

「収穫した梅の実はその日のうちに洗浄と選別を行い、重量に対して約20%の塩で大きな樽に漬け込みます。そして、約1か月寝かせた後、7月下旬頃の晴天が3、4日ほど続く日を見計らって、日光のもとで乾燥させます。この工程を経て、白干しらぼし梅という昔ながらの塩辛い梅干しが完成するのです。その後、加工業者に送られ、ハチミツやシソに漬けて風味を付けたり、減塩するなどの加工が行われます。」


塩のみで漬けられた白干しらぼし梅
写真提供:田辺市梅振興室

こうしてつくられた梅干しは、現代でもおにぎりやお弁当の定番具材として日本人に親しまれているだけでなく、特にその健康効果に高い注目が集まっている。田辺市でも、一日一粒梅干しを食べることを推奨し、その効果を検証する「梅干し食べようプロジェクト」を毎年実施しているという。

「梅干しの主成分であるクエン酸には、食欲増進や運動後の疲労感の軽減、更にカルシウムや鉄の吸収を助ける効果が期待されています。また、梅干しはカリウムなどのミネラルを豊富に含むアルカリ性食品であるため、肉や穀物といった酸性食品に偏りがちな現代人の食生活のバランスを整える手助けをしてくれると言われます。塩分の多さが気になる方もいるかもしれませんが、梅干しに含まれるカリウムは体内の塩分調整に役立つとされています」

更に、クエン酸の働きや塩漬けされることによって、高い防腐性や殺菌効果があり、長期保存ができるという特徴もある。

「特に、昔ながらの製法でつくられた塩分濃度の高い白干し梅はカビが生えにくく、理論上は何年でも保存が可能です」

この驚異的な保存性を生かし、2025年大阪・関西万博では、田辺市が事務局を担う「紀州梅の会」も協力して「万博漬け」という企画が実施された。これは会場で漬け込んだ梅を梅干しにして、25年後の2050年まで保管し、来場者に配布した引き換え券と交換するという、いわば「食のタイムカプセル」である。


2025年大阪・関西万博の会場内で実際に漬けられた梅「万博漬け」。
写真提供:田辺市梅振興室

「近年は食生活の多様化から若い世代の梅干し離れが進んでいますが、最近はキムチ味やスイーツ感覚で食べられる甘い梅干しなど多様な商品も登場しています。まずはご飯に一粒のせて、食べてみてください」

千年以上にわたって日本人の健康を支えてきた梅干し。これからも伝統と知恵を受け継ぎ、多様な形で日本の食文化を彩っていくだろう。

  • 1. 1554年生、1635年没。紀伊田辺きいたなべ城主として紀州きしゅう藩の田辺領を統治した。

By MURAKAMI Kayo
Photo: Tanabe City Ume Promotion Office; PIXTA

You will be redirected to an external website. Would you like to proceed?
If you wish to continue, please click the link below.

Please Note:
  • The linked website is distinct from the website of the Public Relations Office of the Cabinet Office.
  • The URL of the website mentioned in this notice is as of November 21, 2023.
  • The website's URL may be discontinued or changed. Please verify the latest URL on your own.
Top