VOL.211 JANUARY 2026
JAPAN AND UME
家庭の味から世界の酒へ―梅酒の魅力

摘まれた梅の実を氷砂糖や酒と一緒に瓶に詰め、梅酒を作る様子。
かつて日本の各家庭で作られていた梅酒は、今や国内外で注目を集めるリキュールとなり、職人の手によって多彩な味が生まれている。一般社団法人梅酒研究会の代表理事・明星 智洋さんは「梅酒は日本が世界に誇る文化だ」と語る。梅酒とはどんなお酒なのか。その味わい、広がり、そして世界への歩みを聴いた。
梅酒は、日本人の暮らしに深く根付いてきたお酒だ。古くから日本の家庭では、「梅仕事」と呼ばれる初夏の手仕事として、梅の実を使った梅干しや梅酒が仕込まれてきた。包丁も火も使わず、氷砂糖と梅を瓶に入れ、アルコールを注ぐだけでできる梅酒作りは、その手軽さもあって、祖母から母へ、母から子へと受け継がれてきた。
一般社団法人梅酒研究会では、「アルコール・梅・糖分の三つが入っていれば梅酒と呼べる」とする。梅酒の魅力の一つは、用いる素材によって味わいが大きく変化することだ。ベースとなるアルコールは、日本酒や焼酎、ブランデーなど様々であり、それぞれに味の特徴が異なる。
「日本酒ベースの梅酒はすっきりとした酸味があり、比較的甘くないのが特徴です。対してホワイトリカー1で作ると、梅のエキスがしっかり出て濃厚な味わいになります。本格焼酎2ベースなら、米や麦、芋など原料の個性が加わります。ブランデーベースは芳醇でデザートにも合い、ロックで少しずつ味わう飲み方が贅沢です。また「アルコール・梅・糖分の三つが入っていれば梅酒と呼べる」と言いましたが、ほかの果実や香料を加えても梅酒になるので、種類は無限に広がります」と明星さんは言う。
砂糖にも様々な種類がある。氷砂糖の澄んだ甘み、黒糖の深み、和三盆3の上品さ―それぞれの組み合わせが、個性ある一本を生み出す。まさに梅酒は「掛け算の味」だ。

Photo: 一般社団法人梅酒研究会
このように各家庭で育まれてきた梅酒は、やがて酒造メーカーなどによって商品化され、多彩な味が全国に広がっていった。その広がりを背景に、梅酒研究会では、梅酒の魅力を客観的に評価する場を設けている。それが毎年開催されている「全国梅酒品評会」だ。梅酒研究会では、ベースの酒や価格で分けた九つのカテゴリーごとに、梅酒の名前などの情報を伏せた状態で審査を行っている。
「見た目やネーミング、製造元ではなく、いかに梅酒らしさが感じられるかを大切にしています。甘さや香りだけでなく、梅の酸味―つまりクエン酸の旨味が口に広がるかどうか。それが「梅酒らしさ」とも言えるでしょう」と明星さん。
評価の基準は香り、味わい、後味、梅らしさ、バランスの五項目。審査員はソムリエや酒匠、日本酒の専門家らが務める。年々レベルは上がり、日本酒づくりの伝統ある蔵だけでなく、初参加の若手蔵元がいきなり最上位の金賞を獲ることもあるという。

Photo: 一般社団法人梅酒研究会
梅酒研究会では更に、梅酒の魅力を体感してもらう場として「全国梅酒まつり」を各地で開催。来場者が100種類から200種類ほどの梅酒を飲み比べられるイベントで、茨城県水戸市の偕楽園、東京都台東区の上野公園、京都府京都市の北野天満宮、福岡県福岡市の博多駅前広場などを会場に、年に4、5回実施している。数万人の来場者が訪れることもあり、ボランティアスタッフの協力も得て、世代を超えた交流が生まれる。
「作り手やボランティアスタッフにとっては、お客様の「おいしい」という顔を間近で見られるのがご褒美なのです。20代から80代までが一緒に働いて、イベント後には皆で梅酒を味わうこともあります。人と人をつなぐ力が梅酒にはあるのだと感じます」と明星さんは力を込める。

Photo: 一般社団法人梅酒研究会
梅酒は今、海外でも人気に火がついている。アルコール度数が低いものもあることから、お酒に強くない人でも楽しめ、梅酒は「誰にでも開かれたお酒」として受け入れられやすい。「日本酒や焼酎は好みが分かれますが、梅酒を嫌いという人にはなかなか出会いません」と明星さんは微笑む。
梅酒研究会では今後、梅酒のヨーロッパへの展開を見据える。
「食文化が発達しているヨーロッパは、梅酒を「食中酒」として広めるのに最適です。チーズ料理との相性も抜群。ワインとは違う日本の味として楽しんでもらえるはずです」と明星さんは意気込む。日本の家庭の味だった梅酒がいつの日か、世界の家庭のテーブルに乗る日がくるのかもしれない。
- 1. 連続式蒸留器を用いて加水してつくった、アルコール度数36度未満の蒸留酒。クセや香りがほとんどないのが特徴。
- 2. 単式蒸留器を用いてつくったアルコール度数45度以下の蒸留酒。原料独特の風味や味わいが出るのが特徴。
- 3. 日本の徳島県や香川県で作られた上等な砂糖。上品な甘さときめ細やかな粒子が特徴で、和菓子に用いられる。
By YANAGISAWA Miho
Photo: Umeshu Study Group; PIXTA

